相続税の計算方法を完全マスター:4ステップと財産評価のすべて
相続税の計算は「ステップを踏めば誰でも算出できる」一方で、財産評価の段階で大きく税額が変わる繊細な税金でもあります。本記事では、相続税の4ステップ計算法と、土地・建物・マンション・自社株などの財産評価方法を、具体例を交えて徹底解説します。読み終える頃には、自分のケースで概算が出せるようになります。
目次
1. 相続税計算の全体像(4ステップ)
相続税の計算は、見慣れない用語が並ぶため複雑に見えますが、流れ自体は以下の4ステップに整理できます。これさえ押さえれば、税額の概算は誰でも算出できます。
相続税計算の4ステップ
- ステップ1:各相続人の課税価格を計算し、合計する
- ステップ2:合計から基礎控除を引いて「課税遺産総額」を求める
- ステップ3:法定相続分で按分した仮の取得額に税率を当てはめ、相続税の総額を出す
- ステップ4:相続税の総額を、実際の取得割合で各人に按分→各種税額控除を差し引いて納税額確定
ポイントは、「総額をいったん出してから、各人に振り分ける」という二段階構造です。これは「遺産分割の仕方で総額が変わってはいけない」という公平性の観点からの設計です。
2. ステップ1:課税価格の合計を求める
まず、各相続人ごとに「課税価格」を計算し、それを全員分合計します。
課税価格 = 取得財産 + みなし相続財産 + 相続開始前7年以内の贈与 − 非課税財産 − 債務 − 葬式費用取得財産
被相続人が亡くなった時点で所有していたあらゆる経済的価値のあるもの(現預金、不動産、有価証券、事業用資産、貴金属、ゴルフ会員権など)。それぞれ後述する評価方法で金額を算定します。
みなし相続財産
本来は被相続人の財産ではないが、相続税法上「相続で取得したのと同じ」とみなして課税される財産です。
- 生命保険金(被相続人が保険料を負担していた契約の死亡保険金)
- 死亡退職金(被相続人の死亡により受け取る退職手当・功労金など)
- 定期金に関する権利(被相続人が掛けていた個人年金など)
これらにはそれぞれ「500万円 × 法定相続人の数」までの非課税枠があります。
相続開始前7年以内の贈与(生前贈与加算)
2024年改正:3年→7年に延長
従来、相続開始前3年以内の暦年贈与は相続財産に加算されていましたが、2024年1月1日以降の贈与から段階的に「7年以内」に延長されました。経過措置により、最終的に7年加算となるのは2031年以降です。延長された4年分(4〜7年前)については、合計100万円までは加算対象外となります。
非課税財産
- 墓地、墓石、仏壇、仏具、神棚など祭祀財産
- 生命保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人数)
- 死亡退職金の非課税枠(500万円 × 法定相続人数)
- 国・地方公共団体・特定公益法人への寄付財産(相続税の申告期限までに寄付したもの)
債務・葬式費用の控除
被相続人が抱えていた以下のものは課税価格から差し引けます。
| 区分 | 控除できるもの | 控除できないもの |
|---|---|---|
| 債務 | 借入金、未払医療費、未払税金(所得税・住民税・固定資産税)、預り敷金 | 団信付き住宅ローン(保険で消える)、保証債務、墓地購入の未払金 |
| 葬式費用 | 本葬・密葬の費用、お通夜費用、火葬・埋葬・納骨費用、お寺へのお布施・戒名料、葬儀の手伝い者への心付け、遺体運搬費 | 香典返し、墓地・墓石購入費、法事費用(初七日・四十九日以降)、医学上の解剖費用 |
3. ステップ2:基礎控除を引いて課税遺産総額を出す
ステップ1で出した「課税価格の合計」から基礎控除を差し引きます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 課税遺産総額 = 課税価格の合計 − 基礎控除額法定相続人の数え方の注意点
「法定相続人の数」のルール
- 相続放棄した人も含める:放棄してなかったものとして数えます
- 養子の数には制限あり:被相続人に実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人まで
- 胎児:相続開始時点で胎児だった場合、生きて生まれれば含めます
課税遺産総額がマイナスなら相続税ゼロ
課税価格の合計が基礎控除以下なら、課税遺産総額はゼロ以下となり、相続税は1円も発生しません。申告も原則不要です(特例適用で税額ゼロにする場合は申告必要)。
4. ステップ3:相続税の総額を計算する(速算表)
課税遺産総額を、いったん法定相続分で各相続人が取得したと仮定して、各人の仮の取得額を求め、それぞれに速算表の税率を当てはめます。
相続税の速算表
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 1,000万円超 〜 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超 〜 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超 〜 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超 〜 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超 〜 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超 〜 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
速算表の使い方ミニ例
仮の取得額が4,000万円の場合:
4,000万円 × 20% − 200万円 = 600万円
仮の取得額が8,000万円の場合:
8,000万円 × 30% − 700万円 = 1,700万円
5. ステップ4:各人の実際の納税額を確定する
ステップ3で求めた「相続税の総額」を、各相続人が実際に取得した財産の割合(取得割合)で按分します。
各人の算出税額 = 相続税の総額 × その人の課税価格 ÷ 課税価格の合計さらに、相続人の属性により2割加算や各種税額控除を適用して最終納税額が決まります。
2割加算の対象
被相続人の配偶者・1親等の血族(子・父母)・代襲相続人となった孫以外の人が相続・遺贈で財産を取得した場合、算出税額に20%が加算されます。具体的には:
- 兄弟姉妹
- 祖父母・甥・姪
- 代襲相続でない孫(いわゆる孫養子)
- 友人など第三者(遺贈を受けた場合)
6. 財産評価①:土地(路線価方式・倍率方式)
相続税の計算で最も重要かつ複雑なのが土地の評価です。土地は路線価方式または倍率方式のいずれかで評価します。
路線価方式
市街地など路線価が定められている地域では、路線価方式で評価します。
土地評価額 = 路線価 × 各種補正率 × 土地面積(㎡)路線価は道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額(千円単位)で、毎年7月に国税庁が公表します。国税庁 路線価図ホームページで確認できます。
各種補正率の例
| 補正の種類 | 内容 |
|---|---|
| 奥行価格補正 | 奥行が標準より長い・短い土地の調整 |
| 不整形地補正 | 三角形や台形など整形地でない土地の減額 |
| 間口狭小補正 | 道路に接する部分が狭い土地の減額 |
| 側方路線影響加算 | 角地で2つ以上の道路に接する土地の加算 |
| がけ地補正 | 傾斜のある土地の減額 |
倍率方式
路線価が定められていない地域(郊外・地方など)では、倍率方式を使います。
土地評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率評価倍率は国税庁の評価倍率表で地域ごとに公開されています。住宅地、田、畑、山林などで倍率が異なります。
借地権・貸宅地・貸家建付地
| 区分 | 評価方法 |
|---|---|
| 借地権(借りている土地の権利) | 自用地評価額 × 借地権割合(30〜90%、地域で異なる) |
| 貸宅地(人に貸している土地) | 自用地評価額 × (1 − 借地権割合) |
| 貸家建付地(自分の貸家が建つ土地) | 自用地評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合30% × 賃貸割合) |
令和8年度改正:駆け込み賃貸不動産対策
2026年度税制改正では、相続開始前5年以内に取得した一定の貸付用不動産は「課税時期における通常の取引価額」で評価する措置が導入される予定です。タワーマンション節税などの駆け込み策を封じる狙いで、不動産による相続対策は長期視点(取得から5年超)が必要になります。
7. 財産評価②:建物・マンション
建物の評価
建物評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0つまり固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。固定資産税評価額は、毎年4〜6月に市区町村から送られる「固定資産税納税通知書」または「課税明細書」で確認できます。
貸家の評価
貸家評価額 = 固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合30% × 賃貸割合)満室なら賃貸割合100%で、評価額は固定資産税評価額の70%まで圧縮されます。
マンションの評価(2024年改正で大幅変更)
マンションは「敷地(土地部分)+ 建物(区分所有権)」で評価します。
- 敷地の評価 = 路線価方式 × 敷地全体の面積 × 自分の持分(敷地権の割合)
- 建物の評価 = 固定資産税評価額
2024年1月以降に相続した居住用区分所有財産(分譲マンション)には、「区分所有補正率」が適用されます。これは、従来のマンション評価額が実勢価格の40%程度しかなく節税に乱用されていたため、評価水準を市場価格の60%以上に引き上げる改正です。具体的には、築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度などから評価乖離率を算出し、それが大きいマンションほど補正率で評価額が上がります。
8. 財産評価③:上場株式・非上場株式(自社株)
上場株式の評価
上場株式は、以下の4つの株価のうち最も低い価額で評価します。
- 相続開始日(亡くなった日)の終値
- 相続開始月の毎日の終値の平均
- 相続開始月の前月の毎日の終値の平均
- 相続開始月の前々月の毎日の終値の平均
株価が変動する月をまたぐと、評価額に差が出る可能性があります。
非上場株式(自社株)の評価
非上場の同族会社の株式(自社株)の評価は、相続税申告で最も難易度が高い項目の一つです。会社規模により評価方法が変わります。
原則的評価方式(同族株主が取得する場合)
| 会社規模 | 評価方法 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額 100%(純資産価額が低ければそちらを選択可) |
| 中会社(大) | 類似業種比準 90% + 純資産 10% |
| 中会社(中) | 類似業種比準 75% + 純資産 25% |
| 中会社(小) | 類似業種比準 60% + 純資産 40% |
| 小会社 | 純資産価額 100%(類似業種比準と純資産の併用50:50も選択可) |
類似業種比準価額方式
業種が類似する上場会社の株価を基準として、自社の「配当」「利益」「純資産」の3要素を比準して算出する方法です。一般に、純資産価額方式より評価額が低くなる傾向があります(中央値で純資産価額の約27%という調査結果も)。
純資産価額方式
会社の貸借対照表(B/S)を時価評価し、「総資産 − 総負債 − 法人税相当額(評価差額の37%)」で1株あたりの純資産価額を算出。会社を清算したら株主に戻る金額をベースとした方式です。
特例的評価方式(少数株主が取得する場合)
同族株主以外で議決権割合の少ない株主が取得する場合は、配当還元方式(過去2年間の年配当金額の合計÷2÷10%×1株あたりの資本金等の額÷50円)という、より低い評価額になる方式が使えます。
9. 財産評価④:生命保険金・退職金・その他
生命保険金
被相続人が保険料を負担していた契約の死亡保険金は、みなし相続財産として課税対象。ただし以下の非課税枠があります。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数例:法定相続人3人で生命保険金3,000万円の場合、1,500万円が非課税、残り1,500万円が課税対象。
死亡退職金
生命保険金と同様に「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。
ゴルフ会員権
取引価格(仲介業者の相場)の70%で評価。預託金がある場合は別途加算。
書画・骨董・貴金属
類似品の売買実例価額や精通者意見価格(鑑定評価)で評価。
自動車
同年式・同種類の中古車の小売価額。買取査定書が参考になります。
外貨預金・外国株式
相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)で円換算して評価。
10. 税額控除の種類と適用順序
ステップ4の最後で適用される税額控除には、以下のものがあります。適用順序が決まっているので、順番に確認しましょう。
| 順序 | 控除名 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 暦年課税分の贈与税額控除 | 相続開始前7年以内贈与に課された贈与税を控除(二重課税防止) |
| 2 | 配偶者の税額軽減 | 配偶者の取得分のうち1.6億円または法定相続分相当額まで非課税 |
| 3 | 未成年者控除 | (18歳 − 相続時の年齢) × 10万円 |
| 4 | 障害者控除 | (85歳 − 相続時の年齢) × 10万円(特別障害者は20万円) |
| 5 | 相次相続控除 | 10年以内に2回目の相続が発生した場合の負担軽減 |
| 6 | 外国税額控除 | 外国で相続税相当の税を払った場合の控除 |
| 7 | 相続時精算課税分の贈与税額控除 | 精算課税制度で払った贈与税の控除 |
11. シミュレーション3パターン
パターンA:遺産5,000万円、相続人=配偶者と子1人
- 基礎控除 = 3,000 + 600×2 = 4,200万円
- 課税遺産総額 = 5,000 − 4,200 = 800万円
- 配偶者の仮取得(1/2)= 400万円 → 400×10% = 40万円
- 子の仮取得(1/2)= 400万円 → 400×10% = 40万円
- 相続税の総額 = 80万円
- 配偶者が法定相続分(1/2)取得した場合:配偶者は税額軽減で0円、子の納税額 = 80×1/2 = 40万円
パターンB:遺産1.5億円、相続人=配偶者と子2人
- 基礎控除 = 3,000 + 600×3 = 4,800万円
- 課税遺産総額 = 15,000 − 4,800 = 10,200万円
- 配偶者(1/2)= 5,100万円 → 5,100×30% − 700 = 830万円
- 子1人(1/4)= 2,550万円 → 2,550×15% − 50 = 332.5万円
- 相続税の総額 = 830 + 332.5×2 = 1,495万円
- 配偶者が1/2取得した場合:配偶者は税額軽減で0円、子は計747.5万円
パターンC:遺産3億円(うち自宅1億円)、相続人=子2人
- 基礎控除 = 3,000 + 600×2 = 4,200万円
- 小規模宅地等の特例適用 → 自宅評価額 1億 × 80%減 = 2,000万円に圧縮
- 適用後の遺産総額 = 3億 − 8,000万円 = 2億2,000万円
- 課税遺産総額 = 22,000 − 4,200 = 17,800万円
- 子1人(1/2)= 8,900万円 → 8,900×30% − 700 = 1,970万円
- 相続税の総額 = 1,970×2 = 3,940万円(特例なしなら約6,920万円)
まとめ
相続税の計算は4ステップで進めます。重要なのは:
- 財産評価が税額を大きく左右する(特に不動産・自社株)
- 特例制度(小規模宅地等・配偶者軽減)の効果は絶大
- 2024年以降、生前贈与加算が3年→7年に段階延長
- 2026年改正で5年以内取得の貸付用不動産評価が厳格化予定
実際の申告では複雑な財産評価が必要なため、不動産・自社株を持つ方は相続税専門の税理士へのご相談をお勧めします。
※本記事は2026年5月時点の情報。国税庁「No.4155 相続税の税率」、「No.4602 土地家屋の評価」、「No.4638 取引相場のない株式の評価」等を参照。