フリーランス・個人事業主の消費税とインボイス:3割特例、免税の選択、源泉徴収との関係
フリーランス(従業員を雇わない個人事業者)が消費税を納めるかどうかは、インボイス発行事業者の登録をしているかどうかと、基準期間(2年前)の課税売上高などで決まります。登録を機に課税事業者になった人が使ってきた2割特例は令和8年分が最後で、要件を満たす個人事業者は令和9年分・令和10年分に3割特例を使えます。2026年9月26日時点の法令等に基づいて説明します。
インボイス登録をしている個人事業者の消費税【確定】
| 年分 | 使える計算方法(要件を満たす場合)と申告・納付の期限 |
|---|---|
| 令和8年分 (2026年) | 2割特例(最後の年分)・簡易課税・一般課税 期限:2027年3月31日(水) |
| 令和9年分 (2027年) | 3割特例・簡易課税・一般課税 期限:2028年3月31日(金) |
| 令和10年分 (2028年) | 3割特例(最後の年分)・簡易課税・一般課税 期限:2029年4月2日(月) |
| 令和11年分 (2029年)以後 | 簡易課税・一般課税 令和11年分の期限:2030年4月1日(月) |
2割特例と3割特例を使えるのは、登録がなければ免税事業者となる年分に限られ、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件です(2割特例の後の選び方)。簡易課税を使うには届出書の提出が必要です。3割特例は法人には使えません。登録をやめて2027年1月1日から免税事業者に戻る場合の届出期限は、2026年12月17日(木)です(登録を続けるか、免税事業者に戻るか)。申告期限は、3月31日が土曜日・日曜日にあたる年は翌月曜日になります(曜日は当会で確認)。まだインボイスの登録をしていない場合や、免税事業者のままでよいかを確認したい場合は、フリーランスが消費税を納めるのはどんなときかをご覧ください。
【確定】令和8年度税制改正と取引のルール(2026年9月26日時点)
令和8年度税制改正(所得税法等の一部を改正する法律、令和8年法律第12号。2026年3月31日成立)で、2割特例の期間は延長されず、個人事業者に限って令和9年分・令和10年分の3割特例が設けられました。2割特例・3割特例を使った年分の翌年分から簡易課税を選ぶ場合の届出期限は、その翌年分の確定申告期限まで延びました。いずれも2026年10月1日施行です。同じ日から、インボイス発行事業者以外からの仕入れについて取引先が控除できる割合は、80%から70%に下がります。
発注者との取引では、フリーランス法(2024年11月1日施行)に加えて、下請法を改正・改称した取適法が2026年1月1日に施行されています。
目次
フリーランスが消費税を納めるのはどんなときか
【確定】国税庁のタックスアンサーとインボイスQ&Aに基づく内容です。
個人事業者は、その年の前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として消費税の納税義務が免除されます(免税事業者)。ただし、次の場合は免除されません(国税庁 タックスアンサー No.6501)。
| 場合 | 内容 |
|---|---|
| インボイス発行事業者の登録を受けている | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、登録している間は課税事業者です(インボイスQ&A 問17)。 |
| 特定期間の課税売上高が1,000万円を超える | 特定期間は前年の1月1日から6月30日までです。1,000万円の判定は、課税売上高に代えて給与等の支払額の合計額で行うこともでき、どちらで判定するかは事業者が選べます(国外事業者を除きます)。 |
| 課税事業者選択届出書を出している | 届出によって課税事業者になっている年分は、免除されません。 |
会社員として受け取る給与は、雇用契約に基づく労働の対価で、事業として行う取引ではないため、消費税の課税の対象外です(No.6157)。給与を受け取りながら副業で仕事を請け負う場合、給与は課税売上高に入りませんが、対価を得て反復・継続・独立して行う副業の売上げは、事業として行う取引に当たります。
簡易課税の事業区分は、日本標準産業分類の大分類を基礎に判定します。情報通信業や、学術研究、専門・技術サービス業などは「サービス業等」として第5種事業(みなし仕入率50%)に当たります(消費税法基本通達13-2-4、No.6505)。商品の販売や製造にあたる売上げは、別の区分になります。事業区分の一覧は簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率で説明しています。
2割特例は令和8年分が最後:令和9年分からの選び方
【確定・3割特例は2026年10月1日施行】国税庁のインボイス制度 令和8年度税制改正特集とリーフレット(PDF)、インボイスQ&Aに基づく内容です。
2割特例は令和8年分の1年分に使える
2割特例は、納付税額を売上税額の2割にできる経過措置で、「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」に使えます(平成28年改正法附則51条の2)。個人事業者の課税期間は1月1日から12月31日までなので、2026年9月30日で打ち切られるのではなく、令和8年分(2026年1月1日〜12月31日)の1年分に使えます。申告と納付の期限は2027年3月31日(水)です。
使えるのは、登録(または課税事業者選択届出書の提出)がなければ免税事業者となる年分で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件です。事前の届出は不要で、申告のときに選びます。要件、使えない課税期間、申告書の書き方は2割特例はいつまで使えるか(個人・法人別の最後の課税期間と要件)で説明しています。
令和9年分・令和10年分は3割特例
3割特例は、インボイス発行事業者である個人事業者が、令和9年分と令和10年分に、売上税額の7割を仕入税額とみなして差し引き、納付税額を売上税額の3割にできる経過措置です(平成28年改正法附則51条の3。令和8年法律第12号で追加)。国税庁は主な要件として、個人事業者であること、インボイス発行事業者の登録を受けていること、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることを挙げています。基準期間は、令和9年分なら令和7年(2025年)、令和10年分なら令和8年(2026年)です。2割特例と同じく、登録(または課税事業者選択届出書の提出)がなければ免税事業者となる年分に限られます。
事前の届出は不要で、確定申告書に適用を受ける旨を付記します。法人は使えません。国外事業者である年分、課税期間を短縮している年分、一般課税で高額な資産を仕入れたことにより免税事業者になれない年分などは使えません(3割特例を使えない年分)。
計算例:4つの方法の納付税額
当会の計算例(架空の設例)です。計算の手順と端数処理は、国税庁のタックスアンサー No.6371と3割特例の計算の手順によります。
設例:インボイス発行事業者の登録をしている個人のデザイナーです。年間の報酬は税込5,500,000円(税抜5,000,000円、すべて10%)、事業用の課税仕入れ・経費は税込660,000円(すべて10%、インボイスあり)とします。基準期間と特定期間の課税売上高は1,000万円以下で、2割特例・3割特例を使えない年分には当たらないものとします。簡易課税の場合は、売上げをすべて第5種事業(みなし仕入率50%)とします。
| 方法 | 使える年分 | 計算 | 納付税額 |
|---|---|---|---|
| 2割特例 | 令和8年分まで | 390,000 − 390,000 × 80% = 78,000 地方消費税 22,000 | 100,000円 |
| 3割特例 | 令和9年分・令和10年分 | 390,000 − 390,000 × 70% = 117,000 地方消費税 33,000 | 150,000円 |
| 簡易課税(第5種) | 届出をした年分 | 390,000 − 390,000 × 50% = 195,000 地方消費税 55,000 | 250,000円 |
| 一般課税 | どの年分も | 390,000 − 46,800 = 343,200 地方消費税 96,800 | 440,000円 |
390,000円は売上税額(国)で、課税標準額5,000,000円(5,500,000 × 100/110。千円未満切捨て)× 7.8%です。46,800円は一般課税の仕入税額(国)で、660,000 × 7.8/110(割戻し計算)です。地方消費税は差引税額 × 22/78です。差引税額と地方消費税は百円未満を切り捨てます(No.6371、地方税法20条の4の2第3項)。
この設例では、令和8年分は2割特例、令和9年分・令和10年分は3割特例の納付税額がもっとも少なくなります。3割特例より一般課税のほうが少なくなるのは、課税仕入れ等(すべて10%の場合)が税込3,850,000円(税込で売上の70%)を超える場合です。令和11年分からは簡易課税と一般課税の比較になり、第5種事業なら、課税仕入れ等が税込2,750,000円(税込で売上の50%)を超えると一般課税のほうが少なくなります。
2割特例・3割特例・簡易課税では、通常、還付は生じません。多額の設備投資などで仕入れの税額が売上げの税額を上回る年分に還付を受けるには、一般課税で申告します(インボイスQ&A 問117-3)。年間の売上げと仕入れから一般課税・簡易課税・2割特例の納税額を比べるには、当会の消費税の年間納税額シミュレーションを使えます。このツールは3割特例に対応していないため、3割特例の額は上の手順で計算してください。
簡易課税に移る場合の届出期限
簡易課税を使うには、原則として、使いたい年分の前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出します。2割特例や3割特例を使った年分の翌年分から簡易課税を使う場合は、その翌年分の確定申告期限までに出せば、その翌年分から使えます(令和8年度税制改正による特例。翌課税期間が2026年10月1日以後に終わる場合。インボイスQ&A 問117)。
| 前年分の申告 | 簡易課税を始める年分と提出期限 |
|---|---|
| 令和8年分に2割特例 | 令和9年分から:2028年3月31日(金) |
| 令和9年分に3割特例 | 令和10年分から:2029年4月2日(月) |
| 令和10年分に3割特例 | 令和11年分から:2030年4月1日(月) |
| 令和8年分に2割特例を使わない | 令和9年分から:2026年12月31日(木) |
令和11年分の例は国税庁リーフレットの例です。ほかの日付は、同じ決まりに当てはめて当会が確認しました。
簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の年分に使え、選んだら原則として2年間続けて適用します(No.6505)。上の設例のように売上げが第5種事業にあたる場合、令和9年分・令和10年分は、計算上、3割特例(売上税額の30%)のほうが簡易課税(同50%)より納付税額が少なくなります。3割特例を使う年分に簡易課税制度選択届出書を出している場合の扱いについては、国税庁の直接の説明を当会ではまだ確認できていません(3割特例の手続き)。届出の手続きは簡易課税の選択・不適用の手続きで説明しています。
登録を続けるか、免税事業者に戻るか
【確定】登録の取りやめの手続きは現行の制度、取引先が控除できる割合の見直しは令和8年度税制改正(2026年10月1日施行)によるものです。
基準期間と特定期間の課税売上高が1,000万円以下のフリーランスは、登録を続けるか、登録をやめて免税事業者に戻るかを選べます(下の手続きと期限にある制限に当たる場合を除きます)。考える材料は、取引先への影響、手続きの期限と制限、取引価格の話し合いの3つです。
取引先への影響
財務省・公正取引委員会などのQ&Aは、売上先が消費者や免税事業者である場合と、簡易課税制度(2割特例を含む)を適用している事業者である場合は、免税事業者であり続けても取引への影響は生じないと考えられる、としています(免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A Q2)。3割特例も売上税額から納付税額を計算するため、3割特例で申告する取引先は、受け取ったインボイスを計算のために保存しておく必要がありません(国税庁 令和8年度税制改正特集(PDF))。
一方、一般課税で申告している取引先は、インボイス発行事業者でない相手からの仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合しか控除できません。割合は仕入れた日(役務の提供は、原則として完了した日)で決まり、2026年10月1日から70%に下がります(免税事業者等からの仕入れの経過措置(70%控除と1億円上限))。
| 支払った相手と仕入れた日 | 控除できる割合 | 控除できる額 | インボイスがある場合との差 |
|---|---|---|---|
| インボイス発行事業者 | 100% | 30,000円 | ― |
| それ以外:2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% | 24,000円 | 6,000円 |
| それ以外:2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% | 21,000円 | 9,000円 |
| それ以外:2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% | 15,000円 | 15,000円 |
| それ以外:2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% | 9,000円 | 21,000円 |
| それ以外:2031年10月1日以後 | 0% | 0円 | 30,000円 |
当会の計算例(架空の設例)です。控除できる額は国と地方の合計の目安で、税込の報酬 × 10/110 × 割合で計算しています。国の消費税分の正式な計算は、税込の報酬 × 7.8/110 × 割合です(インボイスQ&A 問130)。経過措置で控除するには、取引先が一定の事項を記載した帳簿と請求書等を保存する必要があります。
登録をやめる手続きと期限
登録をやめるには、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を所轄の税務署長に出します。翌年分の初日から起算して15日前の日までに出すと、翌年1月1日に登録の効力がなくなります。この日を過ぎると、翌々年の1月1日からになります(インボイスQ&A 問13)。
- 2027年1月1日からやめる場合の期限は、2026年12月17日(木)です。15日前の日が土曜日・日曜日・祝日などにあたっても、翌日には延びません(問13)。
- 令和5年10月1日を含まない年分(個人事業者は令和6年分以後)に、登録日から課税事業者になる経過措置で登録した人は、登録日以後2年を経過する日を含む年分までは、登録をやめても免税事業者に戻れません(平成28年改正法附則44条5項、インボイスQ&A 問7・問13-2)。
- 課税事業者選択届出書を出して課税事業者になっている人が免税事業者に戻るには、別に「消費税課税事業者選択不適用届出書」を、戻りたい年分の前年12月31日までに出します(問13)。この届出書は、原則として、課税事業者になった日から2年を経過する日を含む課税期間の初日以後でなければ出せません(No.6501)。
- 免税事業者に戻れるのは、基準期間と特定期間の判定で納税義務が免除される年分です。
- 3割特例は、インボイス発行事業者の登録を受けていることが要件です。登録をやめた年分には使えません。
反対に、免税事業者が2027年1月1日から登録を受ける場合は、登録希望日を2027年1月1日と書いた登録申請書を、2026年12月17日(木)までに出します(登録を受けようとする日から起算して15日前の日までの提出。インボイスQ&A 問7・問13-2の決まりに当てはめて当会が日付を確認)。申請の方法はインボイスの登録申請の手続きで説明しています。
取引価格の話し合い
財務省・公正取引委員会などのQ&Aは、これまで消費税相当分を上乗せしていなかった免税事業者が課税事業者に転換した場合、消費税の仕組み上、発注側が支払う取引価格に新たに消費税相当額を上乗せすることが相当であると考えられる、としています(Q6の注)。また、発注側の要請に応じて課税事業者になった仕入先と、新たに納税が必要となる消費税分について明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法上の買いたたきとして問題となるおそれがあるとしています(Q5、Q7)。免税事業者であることを理由に取引価格を一方的に引き下げる、応じなければ取引を打ち切ると通告することなども同様に問題となるおそれがあります。禁止される行為の具体例と相談窓口は、インボイスをきっかけにした取引条件の見直しで説明します。
源泉徴収と消費税の関係
【確定】国税庁のタックスアンサー No.2792・No.2795、国税庁「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」と所得税法に基づく内容です。消費税の売上げの考え方は、消費税法28条1項に基づく当会の説明です。
源泉徴収される報酬
原稿・さし絵・作曲・デザインの報酬、講演料、弁護士・税理士などの業務に関する報酬などは、支払う側が所得税を源泉徴収します(所得税法204条1項、国税庁 タックスアンサー No.2792)。源泉徴収の対象になるかどうかは仕事の種類で決まり、対象に掲げられていない仕事の報酬は源泉徴収されません。また、給与について源泉徴収をする義務のない個人(給与の支払をしていない個人事業者など)が支払う報酬は、源泉徴収されません(所得税法204条2項2号)。
税率は、1回の支払金額のうち100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です(No.2795)。2027年1月1日以後に生ずる所得からは、復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に下がり、防衛特別所得税(1%)が加わりますが、合計の税率は変わらないため、源泉徴収税額の計算方法も変わりません(国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」(PDF)8ページ)。
消費税を区分すると、源泉徴収の対象は報酬の額だけでよい
報酬の額に消費税等の額が含まれている場合、原則として消費税等を含めた金額が源泉徴収の対象です。ただし、請求書等で報酬の額と消費税等の額が明確に区分されている場合は、報酬の額だけを源泉徴収の対象として差し支えないとされています。この請求書等はインボイス(適格請求書)である必要はなく、インボイス発行事業者でない人が発行する請求書等でも、明確に区分されていれば同じ扱いです(国税庁「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」)。
| 請求の内容 | 源泉徴収の対象 | 源泉徴収税額 | 振込額 |
|---|---|---|---|
| 報酬200,000円と消費税20,000円を区分して記載 | 200,000円 | 20,420円 | 199,580円 |
| 区分せずに220,000円と記載 | 220,000円 | 22,462円 | 197,538円 |
| 報酬1,500,000円と消費税150,000円を区分して記載 | 1,500,000円 | 204,200円 | 1,445,800円 |
源泉徴収税額は、支払金額が100万円以下なら支払金額 × 10.21%、100万円を超えるなら(支払金額 − 100万円)× 20.42% + 102,100円で、1円未満を切り捨てます(No.2795)。振込額は、請求額から源泉徴収税額を差し引いた額です。
消費税の計算は、源泉徴収される前の報酬で行う
源泉徴収で差し引かれるのは所得税等で、消費税ではありません。消費税の課税標準は課税資産の譲渡等の対価の額なので(消費税法28条1項)、消費税の計算に使う売上げは、源泉徴収される前の報酬の額(税抜き)です。上の表の1行目なら、振込額の199,580円ではなく、200,000円が課税売上げ(税抜き)になります。源泉徴収された所得税等は、所得税の確定申告で、納める税額から差し引いて精算します(所得税法120条1項)。
インボイスに書く事項はインボイス(適格請求書)の記載事項と書き方、所得税や住民税など個人事業者が納める税金の全体は個人事業主の税務で説明しています。
発注者との取引のルール:フリーランス法と取適法
【確定・施行済み】公正取引委員会・中小企業庁の資料と法令に基づく内容です。
フリーランス法(2024年11月1日施行)
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法、令和5年法律第25号)は、2024年11月1日に施行されました。この法律で守られる「特定受託事業者」は、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものです。発注者の義務は、発注者が従業員を使用しているかどうかと、業務委託の期間によって変わります(公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要」(PDF))。
| 義務 | 義務を負う発注者 | 内容 |
|---|---|---|
| 取引条件の明示(3条) | 特定受託事業者に業務委託をするすべての事業者(従業員のいないフリーランスが発注する場合を含む) | 給付の内容、報酬の額などを、書面または電子メールなどの電磁的方法で明示する |
| 報酬の支払期日(4条) | 従業員を使用する発注者 | 給付を受領した日から60日以内に支払期日を定めて支払う(再委託の場合は、発注元から支払いを受ける期日から30日以内) |
| 禁止行為(5条) | 従業員を使用する発注者(1か月以上の業務委託) | 受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し |
| 募集情報の的確な表示(12条) | 従業員を使用する発注者 | 広告などで募集するときは、虚偽の表示などをせず、正確で最新の内容に保つ |
| 育児介護等への配慮(13条) | 従業員を使用する発注者(6か月以上の業務委託) | 申出に応じて必要な配慮をする |
| ハラスメント対策(14条) | 従業員を使用する発注者 | 相談対応などの体制を整備する |
| 中途解除等の予告(16条) | 従業員を使用する発注者(6か月以上の業務委託) | 原則として、中途解除日などの30日前までに予告する |
取適法(2026年1月1日施行)
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は改正され、2026年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法、通称「取適法」)になりました。資本金の基準に従業員数の基準(300人、100人)が加わり、手形払いの禁止や、協議に応じない一方的な代金決定の禁止などが加わっています(公正取引委員会・中小企業庁 取適法リーフレット(PDF))。
取適法で守られる「中小受託事業者」には個人も含まれます(取適法2条8項・9項)。個人のフリーランスの場合、資本金1,000万円を超える法人から、取適法の対象となる取引(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託)を受けると対象になります。資本金1,000万円以下の法人からでも、常時使用する従業員が100人(製造委託やプログラムの作成の委託などは300人)を超える法人から受ける場合は対象になります。対象となる取引の範囲はフリーランス法のほうが広く定められているため、取適法の対象にならない取引でも、フリーランス法が当てはまることがあります(公正取引委員会 フリーランス法Q&A)。
取適法の委託事業者には、発注内容などの明示、取引記録の作成・2年間の保存、受領日から60日以内の支払期日の設定、遅延利息(年14.6%)の支払の4つの義務と、受領拒否、支払遅延(手形払いなどを含む)、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定の11の禁止事項があります(取適法リーフレット)。両方の法律が当てはまる発注では、発注者は両方の明示事項を1つの書面や電子メールでまとめて示すことができます(フリーランス法Q&A)。
インボイスをきっかけにした取引条件の見直し
財務省・公正取引委員会などのQ&A(2026年1月30日改正)と、公正取引委員会のフリーランス法Q&A(Q116)は、次のような行為が問題となるおそれがあるとしています。
- 再交渉が形式的なものにすぎないまま、免税事業者が仕入れの際に支払っていた消費税額も払えないような著しく低い価格を一方的に設定すること(独占禁止法。取適法の対象となる取引では買いたたき)
- 発注時に決めた代金を、免税事業者であることを理由に後から減らすこと(取適法の対象となる取引では代金の減額。免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由に当たらないとされています)
- 課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切ると、一方的に通告すること
- 課税事業者に転換した相手と、消費税分を価格に反映する必要性について明示的に協議しないまま価格を据え置くこと。相手から協議を求められたのに応じず、一方的に価格を据え置くこと(取適法の対象となる取引では、協議に応じない一方的な代金決定)
一方、課税事業者になるよう要請すること自体や、双方が納得したうえで取引価格を設定し直すことは、それだけで問題になるものではないとされています(同Q&A Q7)。
相談できる窓口
- 取引上の問題(取適法・独占禁止法):公正取引委員会と中小企業庁の相談窓口。一覧は、上の財務省・公正取引委員会などのQ&Aの別紙にあります。
- フリーランスの契約・仕事上のトラブル:フリーランス・トラブル110番(第二東京弁護士会が運営し、弁護士に無料で相談できる窓口。公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁が連携しています)
- インボイス制度の一般的な質問:国税庁のインボイスコールセンター(0120-205-553、土日祝を除く9時〜17時。財務省・公正取引委員会などのQ&Aの別紙による)
- 税金の相談:新宿で税金の相談をしたいときの無料の相談窓口。新宿間税会は、個別の税務相談にはお答えしていません。
期限と確認することの一覧
【確定】日付の元になる規定は、すべて成立し、施行日も決まっています。曜日は当会で確認しました。
| 時期 | 確認すること |
|---|---|
| 2026年中に | 令和7年分の課税売上高(令和9年分の基準期間)と、令和8年1月〜6月(令和9年分の特定期間)の課税売上高・給与等の支払額を確認し、令和9年分に3割特例を使えるかを見ておく(3割特例) |
| 2026年10月1日(木)から | 一般課税の取引先が、インボイスのない仕入れについて控除できる割合が70%になる(取引先への影響) |
| 2026年12月17日(木)まで | 2027年1月1日から登録をやめる場合の登録取消届出書。免税事業者が2027年1月1日から登録を受ける場合の登録申請書(手続きと期限) |
| 2026年12月31日(木)まで | 令和8年分に2割特例を使わない人が令和9年分から簡易課税を使う場合の届出書。課税事業者を選択している人が令和9年分から免税事業者に戻る場合の選択不適用届出書 |
| 2027年2月16日(火)〜3月15日(月) | 令和8年分の所得税の確定申告(源泉徴収された所得税等の精算) |
| 2027年3月31日(水)まで | 令和8年分の消費税の確定申告と納付(2割特例を使える最後の年分) |
| 2028年3月31日(金)まで | 令和9年分の消費税の確定申告と納付(3割特例を使える最初の年分)。令和8年分に2割特例を使った人が令和9年分から簡易課税を使う場合の届出書 |
納付の方法や延滞税は消費税の納付期限、申告書の各欄の書き方は消費税申告書の書き方で説明しています。
よくある質問
ここまでの内容と重なる部分を含め、よく聞かれる質問をQ&A形式でまとめました。
フリーランスの2割特例はいつまで使えますか。
令和8年分(2026年1月1日〜12月31日)が最後です。2026年9月30日で打ち切られるのではなく、同日を含む課税期間の終わりまで使えるため、個人事業者は令和8年分の1年分に使えます。申告と納付の期限は2027年3月31日です。要件を満たせば、令和9年分・令和10年分は3割特例を使えます。〔国税庁 令和8年度税制改正特集〕
3割特例を使うのに届出は必要ですか。
事前の届出は必要ありません。確定申告書に適用を受ける旨を付記します。使えるのはインボイス発行事業者の登録を受けている個人事業者で、登録がなければ免税事業者となる年分に限られ、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件です。法人は使えません。〔国税庁 令和8年度税制改正特集、インボイスQ&A 問114-2〕
令和9年分から簡易課税にしたい場合、届出書はいつまでに出せばよいですか。
令和8年分に2割特例を使った場合は、令和9年分の確定申告期限の2028年3月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出せば、令和9年分から簡易課税を使えます。令和8年分に2割特例を使わない場合は、原則どおり、2026年12月31日までに出す必要があります。簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の年分に使え、選んだら原則として2年間続けて適用します。〔インボイスQ&A 問117、国税庁 タックスアンサー No.6505〕
売上げが1,000万円を超えた年があります。2割特例や3割特例は使えますか。
基準期間(その年の2年前)の課税売上高が1,000万円を超える年分は使えません。特定期間(前年1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えた場合も原則として使えませんが、特定期間の判定は給与等の支払額の合計額で行うこともでき、どちらで判定するかは事業者が選べます。判定は年分ごとに行います。〔インボイスQ&A 問115-2、国税庁 タックスアンサー No.6501〕
源泉徴収される報酬の請求書では、消費税をどう書けばよいですか。
報酬の額と消費税等の額を請求書で明確に区分すれば、支払う側は報酬の額だけを源泉徴収の対象にしても差し支えないとされています。区分していない場合は、消費税等を含めた金額が源泉徴収の対象になります。この請求書はインボイス(適格請求書)である必要はなく、インボイス発行事業者でない人が発行する請求書でも同じ扱いです。〔国税庁「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」〕
源泉徴収された金額は、消費税の計算で売上げから差し引きますか。
差し引きません。源泉徴収で差し引かれるのは所得税等で、消費税の計算に使う売上げは、源泉徴収される前の報酬の額(税抜き)です。源泉徴収された所得税等は、所得税の確定申告で、納める税額から差し引いて精算します。〔消費税法28条1項、所得税法120条1項〕
インボイスの登録をやめて免税事業者に戻るには、いつまでに何を出しますか。
「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を、やめたい年分の初日から起算して15日前の日までに出します。2027年1月1日からやめる場合は2026年12月17日までで、土曜日・日曜日・祝日などにあたっても延びません。令和6年分以後の年分に、登録日から課税事業者になる経過措置で登録した人は、登録日以後2年を経過する日を含む年分までは、登録をやめても免税事業者に戻れません。課税事業者選択届出書を出している人は、別に選択不適用届出書が必要です。〔インボイスQ&A 問13、問13-2〕
免税事業者のままだと、取引先にどのような影響がありますか。
取引先が消費者や免税事業者である場合、簡易課税・2割特例・3割特例で申告している事業者である場合は、インボイスがなくても取引先の納める消費税は変わりません。一般課税で申告している取引先は、インボイスのない仕入れについて、2026年10月1日から2028年9月30日までは仕入税額相当額の70%しか控除できません。その後は50%、30%と下がり、2031年10月1日以後は控除できません。〔免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A Q2、国税庁 令和8年度税制改正特集〕
免税事業者であることを理由に、報酬の引下げや取引の打切りを求められた場合、どう考えればよいですか。
課税事業者になるよう要請すること自体は問題になりません。ただし、課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切ると一方的に通告することなどは、独占禁止法、取適法、フリーランス法上の問題となるおそれがあるとされています。課税事業者に転換した相手と、消費税分について明示的に協議しないまま価格を据え置くことも同様です。相談先には、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口や、フリーランス・トラブル110番があります。〔免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A Q7、フリーランス法Q&A Q116〕
海外の会社から仕事を受けた場合、消費税はかかりますか。
海外の会社を相手に仕事をする場合、消費税がかかることは通常ありません。国内で行う役務の提供を非居住者に対して行う場合は、国内にある資産の運送や保管、国内での飲食や宿泊、これらに準ずるもので国内で直接便益を受けるものなどを除き、原則として輸出免税の対象となり、消費税が免除されます。国内に支店や出張所がある非居住者に対するものは、原則として免除されません。インターネットを通じた電子書籍・音楽・広告の配信などの電気通信利用役務の提供は、提供を受ける者の住所等で国内取引かどうかを判定し、国外の相手なら課税の対象外です。〔国税庁 タックスアンサー No.6567、No.6210〕
法人を設立して仕事を続ける場合、3割特例は使えますか。
使えません。3割特例は個人事業者だけが対象です。法人の2割特例は、令和8年9月30日を含む事業年度が最後です。新しく設立した法人は、資本金1,000万円以上の場合などを除き、設立1期目と2期目は原則として免税事業者ですが、インボイスを発行するには登録が必要です。〔国税庁 令和8年度税制改正特集、国税庁 タックスアンサー No.6501〕
自宅兼事務所の電気代や通信費など、家事按分した経費の消費税はどう扱いますか。
一般課税で申告する場合、事業と家事の両方に使う資産や経費は、家事に使う部分が課税仕入れに当たらないため、使用率や使用面積の割合など、実態に基づく合理的な基準で事業に使う部分を計算します。2割特例・3割特例・簡易課税では、仕入れや経費の消費税を実額で計算しないため、家事按分は納付税額に影響しません。〔消費税法基本通達11-1-4・11-1-5〕
まとめ
- 2割特例は令和8年分(2026年分)が最後で、申告と納付の期限は2027年3月31日です。
- 要件を満たす個人事業者は、令和9年分・令和10年分に3割特例(売上税額の30%を納付)を使えます。事前の届出は不要で、法人は使えません。令和11年分からは簡易課税か一般課税です。
- 2割特例・3割特例を使った年分の翌年分から簡易課税にする場合は、その翌年分の確定申告期限までに届出書を出せば間に合います。
- 2027年1月1日から登録をやめる場合の届出期限は2026年12月17日です。登録をやめると、一般課税の取引先は、インボイスのない仕入れの一定割合(2026年10月1日からは70%)しか控除できません。
- 報酬の額と消費税等の額を請求書で区分すれば、源泉徴収の対象は報酬の額だけで差し支えないとされています。消費税の計算は、源泉徴収される前の報酬で行います。
- 免税事業者であることを理由にした一方的な値下げや取引打切りの通告などは、独占禁止法・取適法・フリーランス法上の問題となるおそれがあります。
出典・参考資料
いずれも2026年9月26日に内容を確認しました。
国税庁 消費税・インボイス
- インボイス制度 令和8年度税制改正特集
- リーフレット「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」(令和8年5月改訂、PDF)
- 令和8年度税制改正特集(3割特例・簡易課税への移行・7・5・3割控除、PDF)
- 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和8年5月改訂、全文PDF)(問7・問13・問13-2・問17・問114-2・問115・問115-2・問117・問117-3・問130)
- 問13(登録の取りやめ)、問114-2(3割特例)、問115-2(3割特例を適用できない課税期間)、問117(簡易課税制度の選択)、問117-3、問130
- タックスアンサー No.6157 課税の対象とならないもの(不課税取引)の具体例、No.6210 国外取引、No.6371 消費税の端数処理、No.6501 納税義務の免除、No.6505 簡易課税制度、No.6567 非居住者に対する役務の提供
- 消費税法基本通達 11-1-4・11-1-5(家事共用資産・水道光熱費等)、13-2-4(事業の種類の判定)
国税庁 源泉所得税
- タックスアンサー No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは、No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき
- インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収(令和3年12月9日)
- 令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし(PDF)(8ページ:防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収)
公正取引委員会・中小企業庁ほか
- 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省、令和8年1月30日改正)
- 公正取引委員会 フリーランス法特設ページ、フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要(PDF)、フリーランス法Q&A(Q116ほか)
- 公正取引委員会 取適法の概要、取適法リーフレット(PDF)
- フリーランス・トラブル110番
財務省・法令
- 財務省 第221回国会における財務省関連法律(所得税法等の一部を改正する法律、令和8年法律第12号。2026年3月31日成立・公布)
- 財務省「令和8年度税制改正の解説」消費税法等の改正(PDF)
- 消費税法(9条・28条・37条)
- 所得税法(120条・204条)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(2条)
- 地方税法(20条の4の2)
改訂履歴
著者:新宿間税会(新宿間税会について)
- 2026年5月15日:公開
- 2026年9月26日:全面改訂(令和8年度税制改正に対応。2割特例の最後の年分、3割特例、簡易課税の届出期限の特例、登録をやめる場合の期限と制限、源泉徴収と消費税の関係、フリーランス法・取適法の節を追加。2割特例を「2026年9月30日までの売上に適用」とした記述、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者に2割特例を当てはめた計算例、会費・組合費や国外取引についての誤った説明、根拠を確認できない人数・市場規模・按分率の記述を削除し、計算例を法定の端数処理で計算し直し)
計算例は、制度の仕組みを示すための架空の設例で、当会の試算です。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については、税理士などの専門家や、所轄の税務署にご相談ください。