消費税申告書の書き方:実務担当者のための完全ガイド

消費税の確定申告は、事業者にとって避けて通れない重要な税務手続きです。特に、令和5年10月からインボイス制度が開始され、これまで免税事業者だった多くの事業者が新たに消費税申告を行うことになりました。本記事では、消費税申告書の基本的な書き方から、原則課税・簡易課税・2割特例それぞれの記載方法まで、実務担当者が知っておくべきポイントを具体例を交えながら詳しく解説します。

消費税申告書作成の流れ STEP 1 必要書類の準備 ・売上・仕入の請求書(適格請求書等保存方式対応) ・前年の申告書控え(第一表・第二表・付表) ・帳簿書類の整理・集計(会計ソフト等を活用) STEP 2 課税方式の選択 ・原則課税・簡易課税・2割特例の適用要件確認 ・有利選択の検討(税額計算シミュレーション) ・届出書の提出要否確認(簡易課税制度選択届出書等) 原則課税 実際の仕入税額で計算 ・付表1-3, 2-3が必要 ・適格請求書の保存必須 ・全額控除・個別対応方式 ・一括比例配分方式選択可 簡易課税 みなし仕入率で計算 ・付表4-3, 5-3が必要 ・売上5,000万円以下 ・事業区分の判定が重要 ・届出書の事前提出必要 2割特例 売上税額の2割納税 ・付表6が必要 ・R8.9.30まで適用可 ・売上のみで計算OK ・申告時選択可能 STEP 3 申告書の作成 ・第二表(課税標準額等の内訳書)→ 付表(課税方式別)→ 第一表の順序で作成 ・計算の順序が重要(端数処理・転記ミスに注意) ・地方消費税額の計算(消費税額 × 22/78)も忘れずに STEP 4 提出・納付 ・e-Tax(電子申告)または税務署窓口・郵送での提出 ・申告期限内に確実に提出(個人:3月31日、法人:決算日から2ヶ月以内) ・納付手続きも同時に(振替納税・クレジットカード・QRコード等) 申告完了

図1:消費税申告書作成の流れ

1. 消費税申告の基本事項

(1)申告期限

消費税の申告期限は、事業形態によって異なります。

個人事業者

  • 申告期限:翌年3月31日まで
  • 課税期間:1月1日~12月31日

法人

  • 申告期限:決算日の翌日から2ヶ月以内
  • 課税期間:事業年度
消費税申告期限早見表 個人事業者 3月 課税期間:1月1日~12月31日 申告期限:翌年3月31日 法人 決算月別の申告期限 3月決算 → 5月31日まで 6月決算 → 8月31日まで 9月決算 → 11月30日まで 12月決算 → 2月末日まで ※ 中間申告がある場合は、課税期間開始から6ヶ月経過後2ヶ月以内

図2:消費税申告期限早見表

(2)申告書の種類

消費税申告に必要な主な書類は以下のとおりです。

基本書類

  • 第一表:消費税及び地方消費税の申告書
  • 第二表:課税標準額等の内訳書

添付書類(課税方式により異なる)

  • 原則課税:付表1-3、付表2-3
  • 簡易課税:付表4-3、付表5-3
  • 2割特例:付表6
消費税申告に必要な書類一覧 共通書類 ・第一表:消費税及び地方消費税の申告書 ・第二表:課税標準額等の内訳書 原則課税 必要な付表: ・付表1-3 ・付表2-3 ・課税売上高5億円超または  課税売上割合95%未満は個別対応 簡易課税 必要な付表: ・付表4-3 ・付表5-3 ・基準期間の課税売上高  5,000万円以下が要件 2割特例 必要な付表: ・付表6(簡易版) ・インボイス登録者限定 ・令和8年9月30日まで ・申告時選択可能

図3:消費税申告に必要な書類一覧

(3)申告書の入手方法

申告書は以下の方法で入手できます。

  1. 国税庁ホームページからダウンロード
    • 最新様式が常に入手可能
    • PDFファイルを印刷して使用
  2. 税務署窓口で入手
    • 記載例も一緒に入手可能
    • 不明点をその場で質問できる
  3. 確定申告書等作成コーナーで作成
    • オンラインで入力・作成
    • そのままe-Tax送信も可能

2. 原則課税方式の申告書作成

(1)原則課税とは

原則課税(一般課税・本則課税)は、実際の取引に基づいて消費税を計算する方法です。

計算式

納付税額 = 売上に係る消費税額 - 仕入れに係る消費税額
原則課税の計算手順 STEP1: 売上税額の計算 売上高 × 7.8/110 = 売上税額 例: 1,100万円 × 7.8/110 = 78万円 STEP2: 仕入税額の計算 仕入高 × 7.8/110 = 仕入税額 例: 660万円 × 7.8/110 = 46.8万円 STEP3: 差引税額の計算 売上税額 - 仕入税額 = 差引税額 例: 78万円 - 46.8万円 = 31.2万円 納付税額: 31.2万円 第二表で計算 付表2-3で計算 第一表に転記

図4:原則課税の計算手順

(2)第二表の記載方法

第二表では、課税標準額と消費税額の内訳を記載します。

主な記載項目

  1. 課税資産の譲渡等の対価の額
    • 税率別(10%、軽減8%)に区分
    • 1,000円未満切り捨て
  2. 課税標準額
    • 対価の額から消費税相当額を除いた金額
    • 計算式:対価の額 × 100/110(10%の場合)
  3. 消費税額
    • 課税標準額 × 7.8%(国税分)

記載例:売上高1,100万円(税込・10%)の場合

対価の額:11,000,000円
課税標準額:10,000,000円(11,000,000 × 100/110)
消費税額:780,000円(10,000,000 × 7.8%)

(3)付表2-3の記載方法

付表2-3では、控除対象仕入税額を計算します。

主な記載項目

  1. 課税仕入れに係る支払対価の額
    • 適格請求書に基づく仕入れ
    • 税率別に区分して記載
  2. 控除対象仕入税額
    • 全額控除の場合:仕入税額をそのまま記載
    • 個別対応方式・一括比例配分方式の場合:計算結果を記載

注意点

  • インボイス制度導入後は、適格請求書の保存が必須
  • 免税事業者からの仕入れは経過措置の適用を確認

(4)第一表の記載方法

第一表は、第二表と付表の数値を転記して作成します。

記載の流れ

  1. 第二表から課税標準額・消費税額を転記
  2. 付表2-3から控除対象仕入税額を転記
  3. 差引税額を計算
  4. 中間納付額がある場合は控除
  5. 納付税額または還付税額を算出

3. 簡易課税方式の申告書作成

(1)簡易課税とは

簡易課税は、売上税額にみなし仕入率を乗じて仕入税額を計算する方法です。

適用要件

  • 基準期間の課税売上高が5,000万円以下
  • 事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出

(2)みなし仕入率

事業区分ごとのみなし仕入率は以下のとおりです。

簡易課税のみなし仕入率 事業区分 業種 みなし仕入率 1種 卸売業 90% 2種 小売業等 80% 3種 製造業等 70% 4種 その他の事業 60% 5種 サービス業等 50% 6種 不動産業 40%

図5:簡易課税のみなし仕入率

(3)簡易課税の計算例

例:小売業(第2種)で売上高2,200万円(税込)の場合

売上税額:2,200万円 × 7.8/110 = 156万円
仕入税額:156万円 × 80% = 124.8万円
納付税額:156万円 - 124.8万円 = 31.2万円
地方消費税:31.2万円 × 22/78 = 8.8万円
合計納付額:31.2万円 + 8.8万円 = 40万円

(4)複数事業を営む場合

2種類以上の事業を営む場合は、原則として事業ごとに計算します。

特例の適用

  • 75%ルール:1種類の事業が全体の75%以上を占める場合
  • 特例計算により有利な方を選択可能

4. 2割特例の申告書作成

(1)2割特例とは

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者向けの特例です。

特徴

  • 売上税額の2割を納税(実質的に8割控除)
  • 令和8年9月30日まで適用可能
  • 申告時に選択可能(事前届出不要)
2割特例でカンタン申告 売上税額 100% 80% 控除(計算不要) 20% 納税 0% 80% 100% 計算がとってもカンタン!売上のみで納税額が決まります 売上税額100万円 × 20% = 納税額20万円 適用期限 令和8年9月30日まで 2割特例の3つのメリット 仕入計算不要 事前届出不要 申告時選択可

図6:2割特例でカンタン申告

(2)適用対象者

対象となる事業者

  • インボイス登録により課税事業者になった者
  • 基準期間の課税売上高が1,000万円以下
  • 特定期間の課税売上高も1,000万円以下

対象とならない事業者

  • 課税事業者選択届出書を提出している者
  • 資本金1,000万円以上の新設法人
  • 調整対象固定資産の仕入れを行った者

(3)2割特例の申告書作成手順

Step1:売上の集計
インボイス登録日以降の課税売上高を集計します。

Step2:付表6の作成
付表6(簡易版)を使用して特別控除額を計算します。

記載例:売上高110万円(税込・10%)の場合

課税標準額:1,000,000円
消費税額:78,000円(1,000,000 × 7.8%)
特別控除額:62,400円(78,000 × 80%)
差引税額:15,600円

Step3:第二表・第一表への転記

  • 付表6の数値を第二表に転記
  • 第二表から第一表に転記
  • 第一表の「2割特例」欄に○を記入

(4)2割特例使用時の注意点

メリット

  • 計算が簡単(売上のみで計算可能)
  • 多くの業種で有利になる可能性が高い
  • 申告時に選択可能

デメリット

  • 還付を受けられない
  • 卸売業(みなし仕入率90%)は不利になる可能性

5. 電子申告(e-Tax)の活用

(1)e-Taxのメリット

利便性の向上

  • 24時間いつでも申告可能
  • 税務署に行く必要なし
  • 添付書類の省略が可能

処理の迅速化

  • 還付が早い(約3週間)
  • 受付確認がすぐにできる
  • データの再利用が可能
電子申告でスマート申告 e-Taxのメリット 24時間365日 いつでも申告 ¥ 還付金 約3週間で処理 自宅から 移動不要 書類省略 ペーパーレス 必要な機器・環境 IC 写真 マイナンバーカード + IC ICカード リーダー または IC 対応 スマートフォン 利用手順(4つのステップ) 1 e-Taxソフト インストール 国税庁HPから 2 利用者情報 登録 初回のみ 3 電子証明書 設定 マイナカード 4 申告送信 完了 受付通知確認

図7:電子申告でスマート申告

(2)e-Tax利用の準備

必要なもの

  1. マイナンバーカード
  2. ICカードリーダライタまたは対応スマートフォン
  3. 利用者識別番号とパスワード

利用方法

  1. e-Taxソフトのインストール
  2. 利用者情報の登録
  3. 電子証明書の取得・登録
  4. 申告データの作成・送信

6. よくある記載ミスと対処法

(1)計算ミス

端数処理の誤り

  • 課税標準額:1,000円未満切り捨て
  • 消費税額:1円未満切り捨て

税率の適用誤り

  • 10%と軽減8%の区分
  • 経過措置の適用確認

(2)転記ミス

防止策

  • チェックリストの活用
  • ダブルチェックの実施
  • 前年との比較分析

(3)添付書類の不備

必須書類の確認

  • 課税方式に応じた付表
  • マイナンバー関係書類
  • 還付申告の場合は還付申告明細書

重要

申告書提出前に必ず以下を確認してください:

  • 計算結果の検証(電卓で再計算)
  • 必要書類の添付確認
  • 署名・押印の確認(書面提出の場合)

7. 申告書作成のポイント

(1)事前準備

必要書類の整理

  • 売上・仕入れの請求書等
  • 適格請求書の確認
  • 前期の申告書控え

計算の準備

  • 会計ソフトでの集計
  • 税率別の区分
  • 課税・非課税の判定

(2)作成時の注意点

正確性の確保

  • 計算過程の記録
  • 根拠資料の保存
  • 申告書控えの保管

期限の厳守

  • 余裕を持った作成
  • 電子申告の活用
  • 税理士への相談

(3)申告後の対応

納付手続き

  • 振替納税の利用
  • クレジットカード納付
  • QRコード納付

書類の保存

  • 申告書控え:7年間
  • 帳簿・請求書等:7年間
  • 電子データでの保存も可
申告書記載例(第一表) 消費税及び地方消費税の申告書(一般用) 課税標準額(千円未満切捨て) 10,000,000 1 消費税額 780,000 2 控除対象仕入税額等 468,000 3 差引税額 312,000 4 中間納付額 0 納付税額 312,000 2割特例の適用 該当する場合は○印を記入 5 第二表から転記 1,000円未満切り捨て 第二表から転記 課税標準額×7.8% 付表2-3から転記 全額控除の場合 自動計算 消費税額 - 控除税額 2割特例を使う場合 必ず○を記入! 記入忘れ多発注意 令和8年9月30日まで 記載時の注意点 • 金額は右詰めで記入 • 訂正は二重線で • 計算ミスに注意 • 提出期限厳守

図8:申告書記載例(第一表)

まとめ

消費税申告書の作成は、課税方式により記載方法が異なりますが、基本的な流れは共通しています。重要なのは、自社に適した課税方式を選択し、正確に計算・記載することです。

特にインボイス制度導入後は、適格請求書の保存や2割特例の活用など、新たな検討事項が増えています。本記事を参考に、適切な申告書作成を心がけてください。

不明な点がある場合は、早めに税務署や税理士に相談することをお勧めします。正確な申告により、税務リスクを回避し、健全な事業運営を続けていきましょう。

情報の出典: 国税庁ホームページ、消費税法関連法令
更新日: 2025年7月14日現在の法令に基づく
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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