医療業の消費税:保険診療・自由診療(自費)の区分と、医療機関の仕入税額控除
健康保険などを使った診療(保険診療)には、窓口で払う一部負担金を含めて消費税がかかりません(非課税)。美容整形などの保険が使えない自由診療(自費診療)、差額ベッドの料金、市販薬の販売、健康診断・人間ドックには10%の消費税がかかります(課税)。医療機関は売上の多くが非課税になりうるため、課税事業者になるかどうかは自由診療などの課税売上高だけで判定します。また、課税売上割合が95%未満などの場合、仕入れにかかった消費税は課税売上げに対応する部分しか控除できません。この記事では、売上の区分、課税事業者の判定、個別対応方式と一括比例配分方式、簡易課税、控除できない消費税(控除対象外消費税)の扱いを、国税庁などの資料と計算例で説明します。
医療機関の主な売上の区分【確定】
| 区分 | 主なもの |
|---|---|
| 非課税 | 健康保険法・国民健康保険法などに基づく診療(患者の一部負担金を含む)、公費負担医療、労災保険・自賠責保険の対象となる療養、分娩の介助などの助産、介護保険の保険給付の対象となるサービス |
| 課税(10%) | 美容整形などの自由診療、差額ベッドの料金、市販薬などの物品販売、健康診断・人間ドック、保険診療に当たらない予防接種 |
根拠は、消費税法別表第二第6号・第7号・第8号、消費税法基本通達6-6-1〜6-6-3・6-8-1〜6-8-3、国税庁 タックスアンサー No.6201です。細かい区分は売上の区分で説明しています。
【確定】2026年10月1日からの変更(2026年9月26日時点)
インボイスのない仕入先(免税事業者など)からの仕入れで控除できる割合は、2026年10月1日から80%から70%に下がります。2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わり、個人事業者(個人の診療所など)に限って、要件を満たせば2027年分・2028年分に3割特例を使えます。医療法人には3割特例はありません。医療機関に関係する点は、2割特例・3割特例とインボイスのない仕入先からの仕入れにまとめています。
目次
売上の区分:保険診療は非課税、自由診療は課税
【確定】消費税は、国内で事業者が事業として対価を得て行う取引にかかります。ただし、社会政策的な配慮などから、医療の一部は非課税とされています(国税庁 No.6201 非課税となる取引)。非課税になる医療の範囲は、消費税法別表第二第6号と、国税庁の消費税法基本通達6-6-1に列挙されています。
非課税になる医療
- 健康保険法・国民健康保険法などに基づく療養の給付と、入院時食事療養費・入院時生活療養費・保険外併用療養費・療養費などの支給に係る療養、訪問看護療養費の支給に係る指定訪問看護(高齢者の医療の確保に関する法律に基づくものも同じです。例:健康保険証を使った風邪や骨折などの通常の受診、入院中の食事代、自宅での訪問看護)
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく医療、生活保護法の医療扶助のための医療、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づく医療、障害者総合支援法に基づく自立支援医療費などの支給に係る医療
- 公害健康被害の補償等に関する法律、労働者災害補償保険法(労災保険)に基づく療養(例:仕事中のけがの治療)
- 自動車損害賠償保障法(自賠責保険)の規定による損害賠償額の支払を受けるべき被害者に対する療養(例:交通事故によるけがの治療)
- 国や地方公共団体が費用の全部または一部を負担する医療(いわゆる公費負担医療。例:学校保健安全法に基づく医療に要する費用の援助に係る医療、母子保健法に基づく養育医療)
保険証を使って受診した患者が窓口で払う一部負担金も、非課税の療養の対価に含まれます(基本通達6-6-3)。また、健康保険の対象となる診療であれば、患者が医療費を全額支払った場合でも非課税になる例が、国税庁の質疑応答事例に示されています(質疑応答事例「自己の負担で行う保険診療」)。消費税の区分は、患者が窓口で払うかどうかではなく、健康保険法などの法律に基づく療養に当たるかどうかで決まります。
助産は保険が使えなくても非課税
医師・助産師などによる助産も非課税です(消費税法別表第二第8号)。基本通達6-8-1は、次のものを挙げています。
- 妊娠しているかどうかの検査
- 妊娠していることが分かった時以後の検診・入院
- 分娩の介助
- 出産の日以後2か月以内に行われる母体の回復検診
- 新生児の検診・入院
妊娠中と出産後の入院(産婦人科医が必要と認めた入院など。出産後は出産の日から1か月が限度)については、差額ベッド料や特別給食費も全額が非課税です(基本通達6-8-2・6-8-3)。
課税になるもの・区分に注意が必要なもの
| 取引 | 区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 美容整形など、保険が使えない自由診療 | 課税 | No.6201 |
| 差額ベッドの料金など、保険外併用療養費の支給に係る療養のうち財務大臣の定める金額を超える部分 | 課税(助産に係る入院の差額ベッド料などは非課税) | No.6201、基本通達6-6-3(注)・6-8-3 |
| 市販されている医薬品の販売、療養に当たらない医薬品・医療用具の販売 | 課税(義肢・車椅子など一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付けなどは非課税) | No.6201、基本通達6-6-2 |
| 健康診断・人間ドック(特定健康診査を含む) | 課税 | 非課税の範囲(基本通達6-6-1)に含まれていません。厚生労働省は、特定健康診査の対価には自己負担分・保険者負担分とも10%の税率が適用されると説明しています(特定健康診査・特定保健指導に係る費用の取扱いに関するQ&A(PDF)問1-1) |
| 保険診療に当たらない予防接種 | 課税 | 非課税の範囲(基本通達6-6-1)に含まれていません。消費税の導入時の厚生省通知は、予防接種・健康診査等の委託事業費について所要の措置を講じる必要があるとしていました(平成元年2月14日健政発第70号) |
| 医療法人が勤務医を産業医として派遣して受け取る委託料 | 課税 | 質疑応答事例「産業医の報酬」 |
| 個人の開業医が事業者から受け取る産業医の報酬 | 原則として給与収入で、消費税の対象外(不課税) | 同上 |
| 介護保険の保険給付の対象となる居宅サービス・施設サービスなど | 非課税(利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は課税) | No.6201 |
| 預金の利子 | 非課税 | No.6201 |
課税売上高や課税売上割合を正しく出すには、売上を非課税(保険診療など)と課税(自由診療など)に分けて集計しておく必要があります。
課税事業者になるかどうか:判定に使うのは課税売上高
【確定】基準期間(個人は前々年、事業年度が1年の法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として消費税の納税義務が免除されます(国税庁 No.6501)。医療機関の場合、保険診療などの非課税売上は課税売上高に含めません。自由診療、健康診断、予防接種、物品販売などの課税売上だけで判定します。基準期間に免税事業者だった場合は、その期間の課税売上を税抜きにせず、受け取った金額の全額で判定します(基本通達1-4-5)。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、次のような場合は免税になりません(No.6501)。
- 適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受けている
- 特定期間(個人は前年1月1日〜6月30日、法人は原則として前事業年度開始の日から6か月)の課税売上高が1,000万円を超える。ただし、特定期間は課税売上高に代えて給与等の支払額の合計額で判定することもでき、どちらで判定するかは事業者が選べます
- 消費税課税事業者選択届出書を出している
- 設立1期目・2期目の法人で、期首の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である(新設法人)など(No.6503)
- 相続で事業を引き継いだ場合に、被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、一定の基準に当たる
- 一般課税で申告する課税期間に高額特定資産を取得した場合の特例に当たる(高額な医療機器を買う場合)
判定の例
| 項目 | 金額 | 判定 |
|---|---|---|
| 基準期間(2025年)の保険診療の収入 | 5,000万円 | 非課税売上なので、課税売上高に含めません |
| 基準期間(2025年)の自由診療・健康診断などの収入(免税事業者の期間の受取額) | 800万円 | 基準期間の課税売上高は800万円で、1,000万円以下 |
| 特定期間(2026年1月〜6月)の課税売上高 | 450万円 | 1,000万円以下 |
| 特定期間の給与等の支払額 | 1,200万円 | 1,000万円を超えますが、課税売上高で判定することを選べるので、特定期間の基準では課税事業者になりません |
この例では、インボイス発行事業者の登録などをしていなければ、2027年分は免税事業者です。自由診療などの課税売上高が1,000万円を超えた年があると、その2年後の年分は課税事業者になります。
課税売上割合と仕入税額控除(個別対応方式・一括比例配分方式)
課税売上割合の出し方
【確定】分母・分子とも税抜きの金額で、売上の返品や値引きは差し引きます。輸出などの免税売上は分母・分子の両方に入り、不課税の取引は含めません(国税庁 No.6405、No.6921)。保険診療の収入(患者の一部負担金を含む)は非課税売上高として分母に入るので、保険診療の収入が大きいほど課税売上割合は低くなります。
課税売上割合の端数は、任意の位以下を切り捨てて計算してもかまいませんが、四捨五入はできません。たとえば94.856…%を四捨五入して95%とすることは認められません(質疑応答事例「課税売上割合の端数処理」)。
全額控除できるのは「95%以上」かつ「課税売上高5億円以下」のとき
【確定】その課税期間の課税売上高が5億円以下で、かつ課税売上割合が95%以上なら、仕入れにかかった消費税を全額控除できます。それ以外の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式で、課税売上に対応する部分だけを控除します(国税庁 No.6401)。
個別対応方式
| 区分(No.6401) | 控除 | 医療機関での例(当会の例示) |
|---|---|---|
| イ 課税売上げにのみ要するもの | 全額 | 自由診療にだけ使う機器・材料、販売するために仕入れた市販品 |
| ロ 非課税売上げにのみ要するもの | 控除できない | 保険診療にだけ使うことが明らかなもの |
| ハ 課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの | 課税売上割合をかけた額 | 家賃、水道光熱費、両方に使う医療機器、区分が困難な医薬品 |
個別対応方式は、イ・ロ・ハの区分がされている場合に限り使えます(No.6401)。医薬品について、国税庁の質疑応答事例は、保険診療と自由診療で同じ薬品を使うことが多く、仕入れの段階で区分することが困難と認められる場合は、その薬品や機材の仕入れを共通用(ハ)として区分するとしています。この場合、税務署長の承認を受ければ、課税売上割合に代えて、保険診療と自由診療の患者数の比率や使用薬価の比率などを「課税売上割合に準ずる割合」として使えます(質疑応答事例「薬品の仕入れについての仕入税額控除」)。
課税売上割合に準ずる割合を使うには、適用を受けたい課税期間の末日までに「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を出し、承認を受けておく必要があります。末日までに申請書を出し、翌日から1か月以内に承認を受けた場合は、末日に承認があったものとみなされます(国税庁 No.6417)。なお、全額控除できる「95%以上」かどうかは、準ずる割合ではなく本来の課税売上割合で判定します(No.6401)。
一括比例配分方式
イ・ロ・ハの区分をしていない場合や、区分していてもこの方式を選ぶ場合に使います。一括比例配分方式を選んだ場合は、2年間以上続けて適用した後でなければ個別対応方式に変えられません。また、課税売上割合に準ずる割合は使えません(No.6401)。
計算例:課税売上割合12%の診療所
当会の計算例(架空の設例)です。医療法人の診療所で、課税期間の売上(税抜)は、保険診療(患者の一部負担金を含む)8,800万円、自由診療・健康診断・予防接種1,200万円とし、ほかの売上はないものとします。基準期間の課税売上高も1,200万円で、インボイス登録と関係なく課税事業者なので、2割特例は使えません。課税仕入れ(税抜)は、イ(課税売上げにのみ要するもの)300万円、ロ(非課税売上げにのみ要するもの)1,000万円、ハ(共通して要するもの)2,700万円の合計4,000万円です。簡易課税の列は、前もって届出をしていた場合の額です。
課税売上割合 = 1,200万円 ÷(1,200万円 + 8,800万円)= 12%
消費税額に直すと、イは300万円×10%=300,000円、ロは1,000万円×10%=1,000,000円(控除不可)、ハは2,700万円×10%=2,700,000円です。下の表はこの税額をもとに計算しています。
| 項目 | 個別対応方式 | 一括比例配分方式 | 簡易課税(第5種) |
|---|---|---|---|
| 売上税額 | 1,200,000 | 1,200,000 | 1,200,000 |
| 控除できる税額 | 300,000+2,700,000×12% =624,000 | 4,000,000×12% =480,000 | 1,200,000×50% =600,000 |
| 納付税額 | 576,000 | 720,000 | 600,000 |
| 控除できなかった仕入れの税額 | 3,376,000 | 3,520,000 | - |
この例では、個別対応方式の納付税額が最も少なく、一括比例配分方式より144,000円少なくなります。簡易課税は課税売上割合を使わずに計算するため、課税売上げにのみ要する仕入れが少ない場合などには、簡易課税の方が納付税額が少なくなることもあります。ただし簡易課税は、適用を受けたい課税期間が始まる前に届出が必要で、後から選ぶことはできません(簡易課税)。
申告では、国の消費税(7.8%)で計算して端数を処理し、地方消費税を国の差引税額の22/78で出します。個別対応方式の場合は、国の差引税額449,200円(百円未満切捨て)+地方消費税126,600円=575,800円となり、上の目安と200円ずれます。一括比例配分方式(720,000円)と簡易課税(600,000円)は目安と同じ額になります。申告の計算手順は消費税の計算方法(事業者が納める消費税額の計算)で説明しています。
医療機器などの固定資産は、第3年度に調整が必要になることがある
【確定】税抜100万円以上の建物・医療機器などの固定資産(調整対象固定資産)の消費税を、課税売上割合を使う方法(比例配分法。95%以上で全額控除した場合を含みます)で控除した場合に、第3年度の課税期間(仕入れた課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間)の通算課税売上割合が、仕入れた課税期間の課税売上割合と比べて著しく増加または減少したときは、第3年度の課税期間で控除税額を調整します(国税庁 No.6421)。自由診療の割合が大きく変わる見込みがあるときは、この調整も含めて考える必要があります。
簡易課税(第5種・50%)と2割特例・3割特例
簡易課税:医療業は第5種事業
【確定】簡易課税では、売上税額にみなし仕入率をかけた額を仕入れの税額として控除します。基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出した事業者が使えます。原則として2年間はやめられず、還付も受けられません(国税庁 No.6505)。
医療業(日本標準産業分類の大分類「医療、福祉」)は、第5種事業で、みなし仕入率は50%です(基本通達13-2-4、質疑応答事例「日本標準産業分類からみた事業区分」)。ただし、他の者から購入した商品をその性質・形状を変えずに販売する売上は、第1種事業(卸売業)または第2種事業(小売業)になります(基本通達13-2-4、No.6509)。事業区分ごとの計算は簡易課税制度の事業区分をご覧ください。
簡易課税では課税売上割合による按分をしないため、個別対応方式のような仕入れの区分は必要ありません。上の計算例では、納付税額は600,000円です。
高額な医療機器を買う場合(高額特定資産)
【確定】一般課税(原則課税)で申告する課税期間に、税抜1,000万円以上の棚卸資産や調整対象固定資産(高額特定資産)を仕入れると、翌課税期間から、仕入れた課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までは、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者になれません。また、仕入れた課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までは、簡易課税制度選択届出書を出せません(国税庁 No.6502)。事業年度が1年の法人なら、購入した期を含めて3期は一般課税で申告することになります(当会の整理)。簡易課税で申告する課税期間に仕入れた場合は、この特例の対象になりません(No.6502)。
| 申告の方法 | 1期目 | 2期目 | 3期目 | 3期の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 一般課税(1期目に一般課税で申告した場合) | 1,000,000 | 2,200,000 | 2,200,000 | 5,400,000 |
| 簡易課税(1期目の前から届出をしていた場合) | 1,500,000 | 1,500,000 | 1,500,000 | 4,500,000 |
前提:毎期の課税売上(税抜)3,000万円(売上税額300万円)、課税売上割合95%以上、課税売上高5億円以下。1期目に税抜1,200万円のレーザー機器を購入し、1期目の課税仕入れ(税抜)は機器を含めて2,000万円、2期目・3期目は各800万円。一般課税の納付税額は、1期目300万円−200万円、2期目・3期目300万円−80万円。簡易課税は各期300万円×(1−50%)。
購入した1期目だけを見ると、一般課税の方が50万円少なくなります。しかし、1期目に一般課税で高額特定資産を仕入れたため2期目・3期目も簡易課税を選べず、この例では3期の合計で一般課税の方が90万円多くなりました。仕入れの税額が売上の税額を上回って還付を受けたい場合は一般課税で申告する必要があり、簡易課税では還付を受けられません(No.6505)。高額な機器を買う年は、その後の年分も含めて比べる必要があります。
2割特例・3割特例
【確定】2割特例は、インボイス発行事業者の登録を機に免税事業者から課税事業者になった事業者などが、納付税額を売上税額の20%にできる特例です。2026年9月30日を含む課税期間で終わり、個人事業者は2026年分が最後です(2割特例はいつまで?)。
【確定・2026年10月1日施行】個人事業者に限り、要件を満たせば2027年分・2028年分に、売上税額の30%を納める3割特例を使えます。法人(医療法人を含みます)は使えません。2割特例・3割特例とも、登録(または課税事業者選択届出書の提出)がなければ免税事業者となる課税期間に限られ、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年分などには使えません(国税庁 令和8年度税制改正特集、国税庁リーフレット(PDF))。使えない年分や簡易課税との比較は3割特例の解説にまとめています。
医療機関に当てはめると、自由診療などの課税売上高が1,000万円以下で、インボイス発行事業者の登録をした診療所が対象になりえます。どちらの特例も売上税額だけで計算するため、課税売上割合による按分は必要ありません。2割特例・3割特例を使った課税期間の次の課税期間は、その課税期間の申告期限までに届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を使えます(ただし、次の課税期間が2026年9月30日以前に終わる場合は、その課税期間の末日までの届出が必要です。No.6505)。
控除できない消費税(控除対象外消費税)の扱い
【確定】社会保険診療は非課税なので、医療機関は保険診療について患者から消費税を受け取りません。一方で、医薬品や設備を仕入れるときは消費税を払っており、保険診療に対応する部分は仕入税額控除ができないため、医療機関のコストになります。厚生労働省は、このような控除対象外消費税について、診療報酬や薬価等を設定する際に医療機関等が仕入れで支払う消費税を反映し、1989年・1997年・2014年・2019年の消費税の導入・引上げ時に点数を上乗せしてきたと説明しています(厚生労働省「消費税と診療報酬について」(PDF))。
法人税・所得税での処理(税抜経理の場合)
税抜経理方式を採用していて、課税売上高が5億円超または課税売上割合が95%未満のときは、控除できなかった仮払消費税等(控除対象外消費税額等)が生じます。税込経理方式なら、消費税等は資産の取得価額や経費の額に含まれるので、特別な処理は要りません(国税庁 No.6921)。
| 区分 | 処理 |
|---|---|
| 資産以外(経費)に係るもの | 法人は全額をその事業年度の損金の額に算入(交際費等に係る部分は交際費等の額に加えて損金不算入額を計算)。個人は全額をその年分の必要経費に算入 |
| 資産に係るもの:方法1 | 資産の取得価額に算入し、その後の償却費などとして損金・必要経費に算入 |
| 資産に係るもの:方法2 | 課税売上割合が80%以上、棚卸資産に係るもの、または一の資産に係る額が20万円未満のいずれかなら、法人は損金経理をした金額をその事業年度の損金に、個人は全額をその年分の必要経費に算入 |
| 資産に係るもの:方法2に当たらない場合 | 「繰延消費税額等」として資産に計上し、60で割って月数をかけた額(法人は損金経理をした金額の範囲内)を損金・必要経費に算入。資産を取得した事業年度・年分は、その2分の1 |
当会の計算例(架空の設例):課税売上割合が12%の診療所(法人・事業年度12か月・税抜経理)が、保険診療と自由診療の両方に使う超音波診断装置を税抜800万円で購入した場合、消費税等80万円のうち控除できるのは80万円×12%=96,000円で、残りの704,000円が控除対象外消費税額等です。課税売上割合が80%未満で、一の資産について20万円以上なので、取得価額に算入しない場合は繰延消費税額等になり、損金に算入できるのは1年あたり704,000円÷60×12=140,800円、購入した事業年度はその2分の1の70,400円までです。この装置は調整対象固定資産にも当たるため、第3年度の調整の対象にもなります。
インボイス制度と経過措置:医療機関で確認すること
インボイスを求められる取引
【確定】インボイス(適格請求書)を交付できるのは、税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者だけです。登録を受けた事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときに、インボイスを交付する義務があります(国税庁 No.6498)。この交付義務は課税資産の譲渡等についてのもので、非課税の保険診療には関係しません(消費税法57条の4)。
医療機関の取引では、企業から受託する健康診断や、医療法人が受け取る産業医の委託料のように、相手が課税事業者である課税取引で、インボイスを求められることがありえます。登録していない医療機関から仕入れた事業者は、原則として次の経過措置の割合でしか控除できません(税込1万円未満の仕入れについての少額特例などを除きます)。免税事業者の診療所が登録すると、課税事業者として自由診療などの売上について申告が必要になります(2割特例・3割特例は前の節)。登録の手続きはインボイスの登録申請の手続きで説明しています。
インボイスのない仕入先からの仕入れ(経過措置)
【確定・2026年10月1日施行】インボイスのない仕入先(免税事業者など)からの仕入れは、経過措置により一定の割合を控除できます。割合は仕入れた日で判定します(サービスの提供を受けた場合は提供が完了した日)。
| 仕入れた日 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以後 | 0% |
同じ仕入先からの仕入れが年1億円を超える場合、超えた部分には経過措置を使えません(2026年10月1日以後に開始する課税期間から。それまでは10億円)。控除を受けるには、区分記載請求書と同様の事項が書かれた請求書等と、経過措置の適用を受ける旨を書いた帳簿の保存が必要です(インボイスQ&A 問113、問113-3、国税庁 令和8年度税制改正特集)。割合の推移と記帳の方法は免税事業者等からの仕入れの経過措置で詳しく説明しています。
医療機関の場合は、仕入れの区分と組み合わせて考えます。給食、検査、歯科技工などの外注は、原則として課税仕入れです(平成元年2月14日健政発第70号)。当会の計算例(架空の設例):登録していない歯科技工所に、自由診療用の補綴物の製作を税込110万円で外注した場合、個別対応方式で課税売上げにのみ要するものとして控除できる額の目安は、2026年9月30日までの仕入れなら8万円(110万円×10/110×80%)、2026年10月1日以後の仕入れなら7万円(同×70%)です。正式な計算では国の消費税分を110万円×7.8/110×70%=54,600円のように出します(インボイスQ&A 問130)。保険診療にだけ使う補綴物の外注(非課税売上げにのみ要するもの)は、個別対応方式では相手が登録していてもいなくても控除できないので、割合の引下げの影響を受けません。簡易課税・2割特例・3割特例は、仕入れの税額を実額で計算しないので、経過措置の割合は納付税額に影響しません。
医療機器のリース
【確定】所有権移転外ファイナンス・リース取引で医療機器などを借りた場合は、リース資産の引渡しを受けた日に資産を譲り受けたものとして、その課税期間に一括して仕入税額控除を行うのが原則です(質疑応答事例「所有権移転外ファイナンス・リース取引の賃借人における仕入控除税額の計算」)。会計上、賃貸借処理をしている場合は、支払うべきリース料をその課税期間の課税仕入れとする分割控除も認められます。ただし、分割控除をしていた途中で残りをまとめて控除するような、控除時期の変更は認められません(質疑応答事例「所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い」)。どちらの場合も、課税売上割合が95%未満などのときは、ほかの仕入れと同じように個別対応方式か一括比例配分方式で控除額を計算します。
申告期限と主な届出
| 手続 | 期限 | 出典 |
|---|---|---|
| 確定申告と納付(個人) | 翌年3月31日 | No.6601 |
| 確定申告と納付(法人) | 課税期間の終了の日の翌日から2か月以内(消費税の確定申告の期限の延長特例を受けている法人は、事業年度終了の日の属する課税期間について1か月延長) | No.6601 |
| 消費税課税事業者届出書(基準期間用・特定期間用) | 課税売上高が1,000万円を超えるなど、事由が生じた場合に速やかに | No.6629 |
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(2割特例・3割特例を使った課税期間の次の課税期間には特例があります) | No.6629、No.6505 |
| 消費税簡易課税制度選択不適用届出書 | 適用をやめようとする課税期間の初日の前日まで(原則として2年間はやめられません) | No.6629、No.6505 |
| 消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書 | 適用を受けようとする課税期間の末日までに申請し、承認を受ける | No.6417 |
| 消費税申告期限延長届出書(法人) | 特例の適用を受けようとする事業年度終了の日の属する課税期間の末日まで | No.6629 |
納付期限と延長については消費税の納付期限、申告書の書き方は消費税申告書の書き方をご覧ください。
よくある質問
病院の窓口で払う医療費に消費税はかかりますか?
健康保険などを使った診療で窓口で払う一部負担金には、消費税はかかりません(非課税)。美容整形などの保険が使えない自由診療、差額ベッドの料金、市販薬の購入には10%の消費税がかかります。〔国税庁 No.6201、消費税法基本通達6-6-3〕
自由診療(自費診療)は必ず課税ですか?
保険が使えない自由診療は課税です。ただし、区分は患者が窓口で払うかどうかではなく、健康保険法などの法律に基づく療養に当たるかどうかで決まります。健康保険の対象となる診療であれば、患者が医療費を全額支払った場合でも非課税になる例が、国税庁の質疑応答事例に示されています。分娩の介助などの助産は、保険が使えなくても非課税です。〔質疑応答事例「自己の負担で行う保険診療」、消費税法基本通達6-8-1〕
健康診断や予防接種に消費税はかかりますか?
かかります(課税)。健康診断・人間ドックや、保険診療に当たらない予防接種は、非課税となる医療の範囲(消費税法基本通達6-6-1)に含まれていません。厚生労働省は、特定健康診査の対価には、自己負担分・保険者負担分とも10%の税率が適用されると説明しています。〔消費税法基本通達6-6-1、厚生労働省 特定健康診査・特定保健指導に係る費用の取扱いに関するQ&A〕
自由診療の売上だけで1,000万円を超えると課税事業者になりますか?
課税事業者になるかどうかは、保険診療などの非課税売上を除いた課税売上高で判定します。基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えれば課税事業者です。1,000万円以下でも、特定期間(個人は前年1月〜6月)の課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者になります。ただし、特定期間は給与等の支払額の合計額に置き換えて判定することもでき、その額が1,000万円以下であれば、この基準では課税事業者になりません。また、インボイス発行事業者の登録をしている場合も課税事業者です。〔国税庁 No.6501〕
医薬品の仕入れは、保険診療用と自由診療用に分けなければなりませんか?
個別対応方式では、仕入れを課税売上げにのみ要するもの、非課税売上げにのみ要するもの、共通して要するものに区分します。国税庁は、保険診療と自由診療で同じ薬品を使うことが多く、仕入れの段階で区分することが困難な場合は、共通用として区分するとしています。この場合、税務署長の承認を受ければ、患者数の比率や使用薬価の比率などを課税売上割合に準ずる割合として使えます。〔質疑応答事例「薬品の仕入れについての仕入税額控除」、国税庁 No.6417〕
課税売上割合が94.9%なら、四捨五入して95%にできますか?
できません。課税売上割合の端数は、任意の位以下を切り捨てて計算することはできますが、四捨五入は認められていません。95%に満たない場合は、個別対応方式か一括比例配分方式で控除額を計算します。〔質疑応答事例「課税売上割合の端数処理」〕
医療法人は3割特例を使えますか?
使えません。3割特例は個人事業者だけが対象で、2027年分と2028年分に使えます。2割特例は法人も対象ですが、2026年9月30日を含む課税期間で終わります。〔国税庁 令和8年度税制改正特集〕
高額な医療機器を買う年は、一般課税(原則課税)の方が有利ですか?
購入した課税期間だけを見れば、一般課税の方が納付税額が少なくなることがあります。ただし、一般課税で申告する課税期間に税抜1,000万円以上の資産を仕入れると、その後の一定期間は免税事業者になれず、簡易課税も選べません。本文の計算例では、購入した期は一般課税が50万円少ない一方、3期の合計では簡易課税の方が90万円少なくなりました。複数年の合計で比べる必要があります。〔国税庁 No.6502〕
開業医が産業医として受け取る報酬に消費税はかかりますか?
個人の開業医が事業者から受け取る産業医の報酬は、原則として給与収入となり、消費税の対象外(不課税)です。医療法人が勤務医を産業医として派遣して受け取る委託料は、医療法人の医業収入として課税の対象です。〔質疑応答事例「産業医の報酬」〕
出典・参考資料
いずれも2026年9月26日に内容を確認しました。
国税庁 タックスアンサー
- No.6201 非課税となる取引
- No.6401 仕入控除税額の計算方法
- No.6405 課税売上割合の計算方法
- No.6417 課税売上割合に準ずる割合
- No.6421 課税売上割合が著しく変動したときの調整
- No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
- No.6501 納税義務の免除
- No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
- No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例
- No.6505 簡易課税制度
- No.6509 簡易課税制度の事業区分
- No.6601 申告と納税
- No.6629 消費税の各種届出書
- No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理
国税庁 消費税法基本通達・質疑応答事例
- 消費税法基本通達 第1章第4節(1-4-5)
- 消費税法基本通達 第6章第6節 医療の給付等関係(6-6-1〜6-6-3)
- 消費税法基本通達 第6章第8節 助産に係る資産の譲渡等関係(6-8-1〜6-8-3)
- 消費税法基本通達 第13章第2節(13-2-4)
- 質疑応答事例「自己の負担で行う保険診療」
- 質疑応答事例「薬品の仕入れについての仕入税額控除」
- 質疑応答事例「課税売上割合の端数処理」
- 質疑応答事例「産業医の報酬」
- 質疑応答事例「日本標準産業分類からみた事業区分(大分類-O教育、学習支援業、P医療、福祉、Q複合サービス事業、Rサービス業(他に分類されないもの))」
- 質疑応答事例「所有権移転外ファイナンス・リース取引の賃借人における仕入控除税額の計算」
- 質疑応答事例「所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い」
国税庁 インボイス制度・改正関係
- 令和8年度税制改正特集(インボイス制度)
- リーフレット「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」(PDF)
- 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(PDF)(問113)
- インボイスQ&A 問113-3(PDF)、問130(PDF)
厚生労働省
- 消費税と診療報酬について、同 説明資料(PDF)
- 消費税率変更に伴う特定健康診査・特定保健指導に係る費用の取扱いに関するQ&A(令和元年8月7日版、PDF)
- 消費税の円滑な実施のための協力依頼について(平成元年2月14日健政発第70号)
法令(e-Gov法令検索)
- 消費税法(9条・9条の2・10条・12条の2・12条の4・30条・33条・37条・57条の4・別表第二)
改訂履歴
著者:新宿間税会(新宿間税会について)
- 2026年5月15日:公開
- 2026年9月26日:全面改訂(売上の区分を国税庁の通達・タックスアンサー・質疑応答事例に基づいて作り直し、助産・産業医・リースを追加。予防接種を「公費負担なら非課税の場合も」とした記述、全額控除の要件から課税売上高5億円以下の条件が抜けていた点、2割特例の対象者の説明、根拠のない業界規模の数値などを削除・訂正。計算例を検算済みの架空の設例に差し替え、高額特定資産、控除対象外消費税の処理、2026年10月1日からの経過措置70%と3割特例を追加)
計算例は、当会が説明のために作成した架空の設例で、特定の医療機関の数値ではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については、税理士などの専門家や、所轄の税務署にご相談ください。公的な無料の相談窓口は新宿で税金の相談をしたいときにまとめています。