4月29日、天皇誕生日のことでございます。祝日とはいえ、新宿の街は相変わらず人通りが多く、山城屋宝飾店も通常通り営業しておりました。
午後も半ばを過ぎた頃、一人の男がふらりと店に入ってまいりました。年のころは三十前後、身なりは小ざっぱりしておりましたが、どこか落ち着きのない様子でした。
男はショーケースの前に立ち、指輪やネックレスをじっと見つめておりました。私が「何かお探しですか」と声をかけますと、男は懐からおもむろに何かを取り出しました。それはなんと、ピストルでございました。
しかし、長年この商売をやっておりますと、ものの真贋を見極める目が自然と養われます。私はその銃を一目見て、これはモデルガンだと直感いたしました。重さも光沢も、本物とは微妙に違うのです。
機転を利かせた対応
とはいえ、万が一ということもございますから、ここは冷静に対処しなければなりません。私はわざと慌てたふりをしながら、店の奥にいた家内に目配せをいたしました。家内はすぐに察して、裏口から110番通報をしてくれました。
その間、私は男に話しかけ続けました。「お客さま、それは大変立派なものですね。どちらでお求めになりましたか」などと、まるで商品を褒めるような調子で話しかけたのです。男は少し面食らった様子でしたが、私の落ち着いた態度に気圧されたのか、次第に銃を持つ手が下がってまいりました。
事件の結末
やがて警察が到着し、男は無事に取り押さえられました。やはりピストルはモデルガンでございました。その後の調べで、男は精神的に不安定な状態にあったことがわかり、精神鑑定の結果、不起訴処分となりました。
振り返ってみますと、宝石商として長年培ってきた「目利き」の技が、まさか強盗対策に役立とうとは思いもよりませんでした。目利きは商売のためだけではなく、身を守るためにも大切なものだと、改めて感じ入った次第でございます。
皆さまも、どうぞご商売に限らず、何事にも「目利き」の心をお持ちいただければと存じます。