毛筆と私

億泉株式会社 代表取締役 奥住弘氏

奥住 弘 氏

億泉株式会社 代表取締役

昨今筆で字を書く人が少なくなった為でしょうか。私如きにも色々な御依頼を頂くことが最近とくに多くなってきました。

賞状とか、巻紙に挨拶状ならまだしも、2メートルもある柾目の桧板に武道場の門札を書いて呉れなどと云ってこられ大変恐縮するが、お断りするのも失礼だし、他所に頼めば「タダ」では済まないからだなと思い、また、書家ではないんだと云う気楽さと、60路を越えてしまったが、何か自分としての足跡を残したいと思う心と、焦りも重なって、何でもお引受けしていますが厚かましい限りです。

奥住弘氏の書作品「神通」
奥住弘氏の書作品

筆をとる前に、まず選句から始まるが、素人の情なさ、結体から調べてみなければならない。字配りをきめる〜全然はまらない〜それからが一苦労、再度配列を色々変えてみる。書き始めると筆が思った通り走ってくれない。滲みもほしい、掠れても見たいが、それぞれ字句にあった墨色も勿論大切だ。

そんなことを考えながら30〜40枚と書き下してしまうが、それで何とか妥協出来れば上出来なのである。手本があって書くのと違い大変な努力を要するものである。

今までに幾百幾千の字句を書いてきたが満足のいく出来ばえのものが何点あったであろうか!

真心をこめて書き上げたものはそれぞれの味が滲み出てきて、出来ばえはともかく楽しいものである。

以前、当会常任理事の奥様御不幸の折、早く成仏出来るようなものを書いてと云う御話を受け、絹本の色紋に青墨を用い、香を焚いて祈念しつつ、「久遠成佛」と書いて差し上げた。

絹本を使うと紙と違い、ほとんど滲まない。そのため墨筆の変化により私でも味わいある掠が出て、青墨の澄んだ美しい青色味と共に作品になんとなく品位を感じさせてくれたことを記憶している。

書はその人の人格が現れるものだと昔から云われている。高僧の書は巧拙は別に何とも云えぬ品位に打たれるものだ。

所詮私は巧いことは書けないが、せめて嫌味のない、まろやかな文字が書けるよう努力し、併せて、豊かな心で筆をもつ毎日が過ごせることを祈っている。

編集後記

たっくす第5号をお届けいたします。今号も会員の皆様のご協力により充実した内容となりました。婦人部コーナーでは着物の装い方を特集し、インタビューではカメラのさくらや羽倉社長にお話を伺いました。歴史コーナーの「税務署と古文書」は今回で完結となります。引き続き皆様のご投稿をお待ちしております。

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