実務への影響 ~令和7年度税制改正による業務変更と対応策~

令和7年度税制改正は、企業の実務に多大な影響を与える大規模な改正となりました。特に「103万円の壁」の見直しは、給与計算、年末調整、人事管理など、企業実務の根幹に関わる変更です。本記事では、実務担当者が直面する具体的な課題と対応策を詳しく解説します。

令和7年度税制改正 実務影響マップ 税制改正 103万円→123万円 基礎控除58万円 特定親族特別控除 給与計算 影響項目: ・源泉徴収税額の変更 ・控除額計算ロジック変更 ・税額表の更新(R8.1~) 年末調整 影響項目: ・扶養控除申告書の変更 ・特定親族の判定基準 ・二段階対応(R7.12) システム対応 影響項目: ・給与計算システム改修 ・会計システム連携 ・10月完了必須 人事労務 影響項目: ・就業規則の見直し ・扶養手当の基準変更 ・従業員説明会(11月) 経理財務 影響項目: ・予算計画の見直し ・人件費予測の更新 ・法人税計算への影響分析 重要度:最高 全部門で対応必須 対応期限:令和7年10月末までにシステム改修完了、11月に従業員説明、12月から新制度適用

図1:令和7年度税制改正が実務に与える影響の全体像

令和7年度税制改正は、基礎控除・給与所得控除の引き上げによる「103万円の壁」の見直しをはじめ、企業実務の根幹に関わる大規模な変更を含んでいます。

本記事では、「給与計算」「年末調整」「経理・財務」「人事・労務」「システム対応」の5つの観点から、実務担当者が取るべき対応策を詳細に解説します。

給与計算実務への影響

源泉徴収事務の変更点

令和7年度税制改正により、源泉徴収事務に大きな変更が生じます。特に重要なのは、実施時期が二段階に分かれていることです。

源泉徴収事務の変更スケジュール 令和7年4月 11月 12月 令和8年1月 3月 現行制度継続 従来の源泉徴収を実施 年末調整 新制度適用 基礎控除58万円 新税額表適用 月次源泉徴収に反映 システム改修時期 令和7年10~11月に改修・テストを実施 二段階対応の注意点 12月と1月で異なる処理が必要

図2:源泉徴収事務の変更タイムライン

ポイント

令和7年11月までは現行の源泉徴収を継続し、12月の年末調整で新制度を適用、令和8年1月から新税額表での源泉徴収を開始します。この二段階での対応により、実務の混乱を最小限に抑えることができます。

給与計算システムの改修要件

給与計算システムには以下の改修が必要となります:

  • 基礎控除額の変更(48万円→58万円、最大95万円)
  • 給与所得控除の最低保障額変更(55万円→65万円)
  • 特定親族特別控除の計算ロジック実装
  • 源泉徴収税額表の切替機能

年末調整実務への影響

令和7年分年末調整の複雑化

令和7年分の年末調整は、新たな控除制度の導入により、従来よりも複雑な処理が必要となります。

年末調整 新旧制度の比較 現行制度(~令和6年) 基礎控除額 48万円 扶養親族の所得要件 給与収入103万円まで 特定親族特別控除 なし 年末調整申告書 3種類 新制度(令和7年~) 基礎控除額 58万円 (最大95万円) UP! 扶養親族の所得要件 給与収入123万円まで UP! 特定親族特別控除 最大63万円 (19~23歳未満) NEW 年末調整申告書 4種類 (新様式追加) 実務負担:大幅増加(計算複雑化・確認作業増加)

図3:年末調整における新旧制度の比較

重要

特定親族特別控除の導入により、19歳以上23歳未満の親族について、所得金額に応じた段階的な控除額の計算が必要となります。これにより年末調整の計算が複雑化し、確認作業が増加します。

年末調整業務の効率化対策

複雑化する年末調整に対応するため、以下の効率化対策を推奨します:

  • 電子申告システムの導入による記載ミスの削減
  • 11月中の申告書配布と説明会の実施
  • チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
  • システムチェックと目視確認の併用

経理・財務実務への影響

防衛特別法人税への対応

令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税額が500万円を超える企業に対して、防衛特別法人税が導入されます。

ポイント

防衛特別法人税は、基準法人税額から基礎控除500万円を差し引いた金額に4%の税率を適用します。中小企業の多くは基礎控除により実質的に非課税となりますが、大企業では年間税負担が約1%増加します。

税効果会計への影響

令和7年3月期決算では、以下の対応が必要です:

  • 防衛特別法人税を考慮した実効税率の再計算
  • 繰延税金資産・負債の再評価
  • 税率変更の影響額に関する注記事項の追加

人事・労務実務への影響

パート・アルバイトの労働環境変化

「103万円の壁」が「123万円の壁」に引き上げられることで、パート・アルバイトの就業調整が緩和されます。

パート・アルバイト雇用管理の見直しポイント 1 採用・募集 募集条件の見直し(~123万円対応) 期限:7月 求人広告の文言変更 期限:8月 採用面接時の説明資料更新 期限:9月 時給設定の再検討 期限:10月 2 労働契約 既存契約の見直し要否確認 期限:8月 労働時間上限の再設定 期限:9月 変更契約書の準備 期限:10月 個別面談の実施 期限:11月 3 就業規則 パートタイム就業規則の改定 期限:9月 扶養手当支給基準の見直し 期限:10月 労働組合との協議 期限:10月 4 従業員説明 説明会資料の作成 期限:10月 全体説明会の開催 期限:11月 Q&A資料の整備 期限:11月

図5:パート・アルバイト雇用管理の見直しチェックリスト

採用戦略の見直し

労働時間の制約が緩和されることで、以下の対応が可能となります:

  • 「扶養内勤務可」の条件を月額10.3万円(特例13.3万円)まで拡大
  • 繁忙期における柔軟なシフト配置
  • 人材確保の競争力向上

配偶者控除・配偶者特別控除の変更

配偶者に関する控除も大幅に見直され、働きやすい環境が整備されます。

ポイント

  • 配偶者控除:配偶者の年収上限が103万円から123万円に引き上げ
  • 配偶者特別控除:満額(38万円)適用の上限が150万円から160万円に引き上げ
  • 201万円の壁:配偶者の年収が201万円を超えると控除がゼロになる仕組みは維持

各種「年収の壁」の整理

税制改正により複数の「年収の壁」が存在することになります。以下の表で整理します。

各種「年収の壁」ビジュアルガイド 令和7年度税制改正後 税制の壁 社会保険の壁 新設 撤廃予定 100万円 住民税 所得割発生 撤廃予定 106万円 社会保険 大企業加入 2026年10月撤廃 NEW! 123万円 所得税 旧103万円 ! 130万円 社会保険 扶養外れる 変更なし NEW! 160万円 配偶者控除 満額上限 旧150万円 201万円 配偶者控除 控除ゼロ 重要ポイント 税制の主な変更 ✓ 103万円の壁 → 123万円に引き上げ ✓ 配偶者特別控除の満額適用が160万円まで拡大 ✓ 基礎控除58万円+給与所得控除65万円 ※働き方の選択肢が広がります 社会保険は変更なし ✓ 130万円の壁は維持(重要) ✓ 106万円の壁は2026年10月に撤廃予定 ✓ 税制と社会保険は別制度 ※就業調整の際は両面から検討が必要

図5-2:各種「年収の壁」の比較一覧

重要な注意点

税制改正により「103万円の壁」が「123万円の壁」に引き上げられますが、社会保険の「106万円の壁」「130万円の壁」は別制度のため、これらの基準は変わりません。パート・アルバイトの就業調整を検討する際は、税制と社会保険の両面から総合的に判断する必要があります。

システム対応の全体像

統合的なシステム改修計画

税制改正に対応するため、給与計算、人事管理、会計システムの統合的な改修が必要です。

統合的システム対応計画 システム/月 4-6月 7-9月 10月 11月 12月 令和8年1-3月 給与計算システム 要件定義・設計 開発・テスト 本番稼働 運用・保守 人事管理システム 要件定義・設計 開発・テスト 本番稼働 運用・保守 会計システム 要件定義・設計 開発・テスト 段階的導入 システム連携テスト 統合テスト フェーズ: 要件定義 開発・テスト 本番稼働 運用・保守 重要期限 10月末:システム改修完了 | 11月末:統合テスト完了 | 12月:新制度での運用開始

図4:統合的システム改修のガントチャート

システム連携の重要性

各システム間の連携を強化することで、以下のメリットが得られます:

  • 給与計算と人事管理の従業員マスタ同期
  • 給与計算と会計の仕訳データ自動生成
  • 人事管理と勤怠管理の労働時間データ連携

業種別の実務影響

業種による影響度の違い

税制改正の影響は、業種によって大きく異なります。パート比率と法人税額の観点から分析します。

業種別の実務影響度分析 法人税額 パート・アルバイト比率 小売・ サービス業 影響度:極高 飲食業 影響度:高 IT業 影響度:中 製造業 影響度:高 影響要因 年末調整 人事管理 防衛税 円の大きさ: 影響度の大きさ

図6:業種別の実務影響度マトリックス

業種別の対応策

ポイント

小売・サービス業はパート比率が高いため年末調整の負担が大きく、製造業は防衛特別法人税の影響を受けやすい傾向があります。各業種の特性に応じた重点的な対応が必要です。

リスク管理と内部統制

税務リスクへの対応

税制改正に伴い、以下の税務リスクに注意が必要です:

税制改正対応のリスク管理体制 リスク管理本部 税務リスク 計算誤り 申告漏れ 過少納付 システムリスク 処理障害 データ不整合 改修遅延 人的リスク 理解不足 操作ミス 情報伝達漏れ コンプライアンス リスク 法令違反 内部統制不備 監査指摘 対応策 ダブルチェック テスト強化 教育研修 内部監査 PDCAサイクル Plan(計画) Do(実行) Check(評価) Action(改善)

図8:税制改正対応のリスク管理体制図

内部統制の強化ポイント

  • 年末調整計算のダブルチェック体制構築
  • システム処理の妥当性確認プロセス
  • 防衛特別法人税の計算確認手順の文書化
  • 定期的な内部監査の実施

実務担当者の年間スケジュール

令和7年度 税制改正対応カレンダー 4月~6月 改正内容の詳細分析 影響度評価・予算確保 システムベンダー協議 7月~9月 対応チーム編成 業務フロー見直し システム要件定義 国税庁:新様式公開(6月末) 10月(重要月) システム開発・テスト 従業員説明資料作成 労働契約変更準備 重要:テスト完了必須 11月(準備月) 従業員説明会実施 システム最終確認 年末調整書類配布 締切:申告書配布完了 12月(実施月) 年末調整実施(新制度) 初期トラブル対応 計算結果確認強化 最重要月:全社体制で対応 令和8年1月~3月 新源泉徴収開始 運用状況モニタリング 決算対応(税効果等) 担当部署: 人事部 経理部 システム部 全社対応 財務部 繁忙期: 準備期 実施期 最繁忙期 国税庁情報提供予定: 5月末 FAQ公開 | 6月末 新様式公開 | 8月末以降 詳細事務内容公開 ※ 令和7年は年内で税制が切り替わる特殊な運用。11月まで従来制度、12月から新制度適用。

図7:令和7年度 税制改正対応の年間スケジュール

まとめ:実務対応のロードマップ

令和7年度税制改正への対応は、全社的な取り組みが必要な大規模プロジェクトです。成功のポイントは以下の3点です:

  1. 早期準備の重要性:改正内容を正確に理解し、十分な準備期間を確保する
  2. 全社的な取り組み:経営層のコミットメントと部門横断的な連携を実現する
  3. 継続的な改善:PDCAサイクルを回し、課題を早期発見・対応する

特に重要なのは、令和7年10月~11月のシステム改修・テスト期間と、12月の年末調整実施時期です。この期間に集中的にリソースを投入し、確実な対応を行うことが求められます。

情報の出典: 財務省「令和7年度税制改正大綱」、国税庁「源泉徴収事務の手引き」
更新日: 2025年7月15日現在の法令に基づく
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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