個人事業主の税務

個人事業主として独立すると、会社員時代とは異なり、自分で税金の計算や納付を行う必要があります。所得税、住民税、事業税、消費税など、個人事業主が納めるべき税金は多岐にわたり、それぞれに異なる計算方法や納付時期があります。

本記事では、個人事業主が知っておくべき税金の基礎知識から、節税対策まで、実務に役立つ情報を網羅的に解説します。正しい税務知識を身につけることで、適切な納税と効果的な節税の両立を目指しましょう。

個人事業主が納める税金の種類

個人事業主が納めるべき税金は、必ず納めなければならないものと、条件によって納めるものに分かれます。まずは全体像を把握しましょう。

個人事業主が納める4つの税金 個人事業主の 税金 所得税 必須 住民税 必須 事業税 条件付き 消費税 条件付き

図1:個人事業主が納める4つの税金

必ず納める税金

個人事業主が必ず納めなければならない税金は、所得税住民税です。この2つは所得がある限り、すべての個人事業主に納税義務が発生します。

条件によって納める税金

  • 個人事業税:所得が年間290万円を超える場合
  • 消費税:基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、または適格請求書発行事業者の場合

ポイント

事業内容や保有資産によっては、固定資産税(不動産を所有)、自動車税(事業用車両を所有)、印紙税(契約書等)も発生する可能性があります。

所得税の仕組みと計算方法

所得税は、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対して課される国税です。個人事業主の場合、事業所得から必要経費と各種控除を差し引いた「課税所得」に対して税率を適用して計算します。

所得税の計算フロー 売上高 1,000万円 必要経費 400万円 事業所得 600万円 所得控除 200万円 課税所得 400万円 税率20%を適用 控除額427,500円 所得税額 372,500円

図2:所得税の計算フロー

所得税の税率(令和6年分)

所得税率の階段グラフ 5% ~195万円 10% ~330万円 20% ~695万円 23% ~900万円 33% ~1800万円 40% ~4000万円 45% 4000万円超 0% 10% 20% 30% 40% 50%

図3:所得税率の階段グラフ

重要

所得税額には別途、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加算されます。これは2013年から2037年まで、東日本大震災の復興財源として課税されるものです。

住民税・個人事業税の詳細

住民税の仕組み

住民税は、都道府県民税と市区町村民税を合わせた地方税です。前年の所得に基づいて計算され、個人事業主の場合は「普通徴収」により自分で納付します。

住民税は以下の2つで構成されています:

  • 均等割:所得に関係なく一定額(標準税額6,000円=都道府県民税1,500円+市区町村民税3,500円+森林環境税1,000円)
  • 所得割:課税所得の10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)

個人事業税の詳細

個人事業税は、法定業種に該当する事業を営む個人に課される地方税です。70業種が対象となっており、業種によって税率が異なります。

ポイント

個人事業税には年間290万円の事業主控除があるため、所得が290万円以下の場合は個人事業税を納める必要がありません。税率は業種により3%~5%となっています。

消費税の納税義務と計算方法

消費税の課税事業者となるかどうかは、事業規模や登録状況によって決まります。特にインボイス制度の導入により、免税事業者でも課税事業者を選択するケースが増えています。

消費税の納税義務判定フローチャート START 基準期間(2年前)の 課税売上高が 1,000万円を超える? はい 課税事業者 消費税の納税義務あり いいえ 特定期間(前年1-6月)の課税売上高が 1,000万円を超える? はい いいえ インボイス発行事業者に登録? はい いいえ 免税事業者 消費税の納税義務なし

図4:消費税の納税義務判定フローチャート

消費税の計算方法

消費税の計算方法は3つあり、事業規模や状況に応じて選択できます:

  1. 一般課税(本則課税):売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引く
  2. 簡易課税制度:基準期間の課税売上高5,000万円以下の場合、みなし仕入率を使用
  3. 2割特例:インボイス制度により免税事業者から課税事業者になった場合、売上税額の2割を納付

青色申告による節税効果

青色申告は、一定の帳簿を備え付け、日々の取引を正確に記録することで、税制上の特典を受けられる制度です。白色申告と比較して大きな節税効果があります。

青色申告特別控除の比較表 65万円控除 e-Tax利用 複式簿記での記帳 貸借対照表の作成 損益計算書の作成 e-Taxで電子申告 55万円控除 紙で申告 複式簿記での記帳 貸借対照表の作成 損益計算書の作成 電子申告なし 10万円控除 簡易簿記でOK 複式簿記不要 貸借対照表不要 簡易な記帳でOK 申告方法は自由

図5:青色申告特別控除の比較表

青色申告の主なメリット

  1. 青色申告特別控除:最大65万円の所得控除
  2. 純損失の繰越控除:赤字を翌年以降3年間繰り越せる
  3. 純損失の繰戻還付:前年が黒字の場合、赤字を繰り戻して還付を受けられる
  4. 青色事業専従者給与:家族への給与を必要経費にできる

ポイント

青色申告特別控除65万円を適用した場合、所得税率20%の人なら13万円の節税効果があります。記帳の手間は増えますが、会計ソフトを使えば比較的簡単に対応できます。

必要経費と家事按分

個人事業主の必要経費は、「収入を得るために直接必要な支出」が原則です。自宅兼事務所など、プライベートと事業の両方で使用するものについては、家事按分により経費計上します。

家事按分の計算例 事業用 30% 生活用 生活用 生活用 家賃の按分計算 家賃総額:100,000円 事業使用割合:30% 必要経費:30,000円 (100,000円 × 30% = 30,000円) 30,000

図6:家事按分の計算例

主な必要経費の例

  • 仕入原価
  • 人件費(従業員給与、外注費など)
  • 地代家賃
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 広告宣伝費
  • 接待交際費
  • 旅費交通費
  • 消耗品費
  • 減価償却費

重要

家事按分は合理的な基準で行う必要があります。白色申告の場合、事業使用割合が50%超であることが原則ですが、青色申告の場合は50%以下でも明確に区分できれば計上可能です。

個人事業主の節税対策

適切な節税対策により、税負担を軽減しながら将来への備えもできます。以下の対策を組み合わせることで、効果的な節税が可能です。

節税対策チェックリスト 青色申告の選択 最大65万円の控除 +65万円 経費の漏れなし計上 領収書は必ず保管 節税効果大 小規模企業共済加入 月額最大7万円 年84万円控除 iDeCo加入 月額最大6.8万円 年81.6万円控除 家事按分の活用 自宅兼事務所の経費化 月数万円節税 各種控除の確認 医療費・ふるさと納税等 控除額次第 トータル節税効果 年間数十万円〜100万円以上も可能

図7:節税対策チェックリスト

法人成りを検討する目安

以下の条件に該当する場合は、法人化を検討する価値があります:

  • 所得が800万円を超える
  • 消費税の課税売上高が1,000万円を超える
  • 事業を拡大して従業員を雇用する予定がある

確定申告の流れとよくある質問

確定申告の手順

  1. 日々の記帳:売上と経費を正確に記録
  2. 決算処理:棚卸し、減価償却費の計算、家事按分の計算
  3. 決算書の作成:青色申告決算書または収支内訳書
  4. 確定申告書の作成:所得金額の計算、所得控除の適用、税額の計算
  5. 申告書の提出:e-Tax(電子申告)、郵送、税務署窓口
年間税務スケジュール 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 確定申告 2/16-3/15 所得税申告・納付 住民税 第1期 6月末 住民税 第2期 8月末 事業税 第1期 8月末 住民税 第3期 10月末 事業税 第2期 11月末 住民税 第4期 1月末 確定申告 住民税 事業税

図8:年間税務スケジュール

よくある質問(Q&A)

Q1. 個人事業主になったら、いくらから税金がかかりますか?

A: 所得税は課税所得が48万円(基礎控除)を超えると発生します。住民税は自治体により異なりますが、所得が45万円程度を超えると発生します。個人事業税は所得が290万円を超えると課税されます。

Q2. 副業の場合も確定申告は必要ですか?

A: 副業の所得が20万円を超える場合は確定申告が必要です。ただし、20万円以下でも住民税の申告は必要なので、市区町村への申告を忘れないようにしましょう。

Q3. 領収書がない経費は計上できませんか?

A: 原則として領収書等の証憑書類が必要ですが、やむを得ない事情がある場合は、出金伝票に詳細を記載することで対応できます。ただし、税務調査で説明を求められる可能性があるため、できる限り領収書を取得しましょう。

Q4. 自宅の家賃はどこまで経費にできますか?

A: 事業で使用している部分のみ経費計上できます。一般的には、仕事部屋の面積割合や使用時間で按分します。例えば、3LDKの1室を仕事部屋にしている場合、家賃の25~30%程度を経費にすることが多いです。

Q5. 青色申告と白色申告、どちらがお得ですか?

A: 一般的には青色申告の方がお得です。青色申告特別控除65万円を適用した場合、所得税率20%の人なら13万円の節税効果があります。記帳の手間は増えますが、会計ソフトを使えば比較的簡単に対応できます。

まとめ

個人事業主の税務は複雑に見えますが、基本を押さえれば適切に対応できます。重要なポイントは以下の通りです。

  1. 4つの主要な税金を理解する:所得税、住民税、事業税、消費税
  2. 青色申告を選択する:最大65万円の特別控除で大きな節税効果
  3. 経費を適切に計上する:領収書の保管と家事按分の活用
  4. 各種控除を活用する:小規模企業共済やiDeCoなどの活用
  5. 期限を守る:確定申告は3月15日まで

税務は事業運営の重要な要素です。正しい知識を身につけ、適切な納税と効果的な節税を両立させることで、健全な事業運営を実現しましょう。不明な点があれば、税理士などの専門家に相談することも検討してください。

情報の出典: 国税庁ホームページ、財務省ホームページ、総務省ホームページ
更新日: 2025年7月11日現在の税制に基づく
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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