事業承継税制はいつまで?特例措置の期限と一般措置・個人版・相続時精算課税・M&A
事業承継税制(特例措置)は、非上場株式や個人事業の事業用資産を後継者に贈与・相続するときの贈与税・相続税を猶予する制度です。法人版は特例承継計画を2027年9月30日までに提出し、2027年12月31日までに贈与・相続を実施する必要があります。個人版はそれぞれ2028年9月30日、2028年12月31日です。いずれも令和8年度税制改正で計画の提出期限が延長されました。本記事では、特例措置の期限に加えて、期限のない一般措置との違い、個人版の対象資産、相続時精算課税との関係、後継者がいない場合のM&Aの税金までまとめます。
事業承継税制(特例措置)の主な期限【確定】
| 区分 | 計画の提出期限 | 贈与・相続の実施期限 |
|---|---|---|
| 法人版(特例措置) | 2027年9月30日 | 2027年12月31日 |
| 個人版 | 2028年9月30日 | 2028年12月31日 |
計画の提出期限は、令和8年度税制改正で法人版が1年6か月、個人版が2年6か月それぞれ延長されました(いずれも2026年3月31日が期限でした)。贈与・相続を実施する期限そのものは変わっていません。詳しくは法人版・個人版の各節をご覧ください。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月、財務省 令和8年度税制改正の大綱〕
本記事は井手政紀税理士(井手政紀税理士事務所/元 新宿税務署長(第84代)/新宿間税会 税理士部会員)の監修内容を反映しています。2026年9月26日、令和8年度税制改正等に合わせて全面改訂し、2026年9月28日に監修者の確認が完了しました。
【確定】令和8年度税制改正による期限の延長(2026年9月26日時点)
令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)で、非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度(法人版)は特例承継計画の提出期限を1年6か月、個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度(個人版)は個人事業承継計画の提出期限を2年6か月、それぞれ延長することが決まりました。もとの期限はいずれも2026年3月31日で、延長後は法人版が2027年9月30日、個人版が2028年9月30日です。贈与・相続を実施する期限(法人版2027年12月31日、個人版2028年12月31日)は変更されていません。特例措置の期限が到来した後の制度のあり方については、令和9年度税制改正に向けて経済産業省・中小企業庁が抜本的な見直しを要望している段階で、2026年9月時点では何も決まっていません。〔財務省 令和9年度税制改正要望事項:事業承継税制の抜本見直し(経済産業省提出)〕
目次
1. 法人版事業承継税制:特例措置の期限と一般措置との違い
法人版事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、中小企業経営承継円滑化法(円滑化法)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合に、その株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等の事由が生じたときに猶予税額を免除する制度です。平成30年度税制改正で、それまでの制度(一般措置)に加えて、10年間の時限措置として特例措置が創設されました。〔国税庁「法人版事業承継税制」〕
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画策定 | 必要(特例承継計画) | 不要 |
| 計画の提出期限 | 2027年9月30日まで | ― |
| 贈与・相続の実施期限 | 2027年12月31日まで | なし(期限のない恒久措置) |
| 対象株式数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 贈与100%・相続100% | 贈与100%・相続80% |
| 承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
| 雇用確保要件 | あり(5年平均8割を下回っても、理由書の提出で納税猶予を継続できる) | あり(5年平均8割を下回ると、原則として納税猶予が打ち切られる) |
| 経営環境の変化による免除 | あり(一定の場合に猶予税額の一部が免除) | なし |
出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)の比較表を当会で整理しました。
特例措置の適用要件と期限
特例措置の適用を受けるには、次の2つの期限をともに満たす必要があります。
- 特例承継計画の提出:2027年9月30日まで。会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した特例承継計画を策定し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所等)の所見を記載のうえ、都道府県知事に提出して確認を受けます。
- 贈与・相続の実施:2027年12月31日まで。この期間内に先代経営者等から後継者へ株式等の贈与・相続等が行われている必要があります。
特例承継計画は、贈与を行った後でも、円滑化法の認定申請時(贈与を受けた年の翌年1月15日まで)までに提出すれば足ります。もっとも、計画の提出期限自体は2027年9月30日までであることに変わりはありません。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
この2027年9月30日という提出期限は、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)で、もとの期限(2026年3月31日)から1年6か月延長されたものです。〔財務省 令和8年度税制改正の大綱 二 資産課税 2(3)〕
一般措置:期限のない恒久制度
特例措置の適用を受けない場合や、特例措置の期限後も見据えて備える場合は、一般措置を使います。一般措置には計画策定や期限の定めがなく、恒久的な制度です。その代わり、対象株式数は総株式数の最大3分の2まで、相続税の納税猶予割合は80%(贈与税は特例措置と同じ100%)にとどまり、雇用確保要件(承継後5年間の平均で贈与・相続時の雇用の8割を維持すること)を満たせない場合は、原則として納税が猶予されている税額の全部または一部を利子税とあわせて納付する必要があります。
猶予と免除の関係
事業承継税制は、贈与税・相続税がその場でゼロになる制度ではなく、納税が「猶予」される制度です。後継者が対象株式を継続して保有する限り猶予は続き、後継者の死亡や、次の後継者への免除対象贈与などの事由が生じたときに、その時点で猶予されている税額が「免除」されます。反対に、対象株式の譲渡など一定の事由(確定事由)に該当すると、猶予されていた税額の全部または一部を利子税とあわせて納付しなければなりません。
特例措置の適用を受けるための主な要件
特例措置の適用を受けるには、これまでの期限に加えて、会社・後継者・先代経営者等のそれぞれについて要件を満たし、都道府県知事の円滑化法の認定を受ける必要があります。主な要件(贈与の場合)は次のとおりです。要件のすべてではありません。
| 区分 | 主な要件 |
|---|---|
| 会社の要件 | 上場会社、中小企業者に該当しない会社、風俗営業会社、資産管理会社(一定の要件を満たすものを除きます)のいずれにも該当しないこと。 |
| 後継者(受贈者)の要件 | 贈与の時に会社の代表権を有すること、贈与の日に18歳以上であること、贈与の直前に会社の役員であること、後継者および後継者と特別の関係がある者をあわせて総議決権数の50%超を保有することとなること。 |
| 先代経営者等(贈与者)の要件 | 会社の代表権を有していたこと、贈与の直前において先代経営者等および特別の関係がある者で総議決権数の50%超を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと、贈与の時に会社の代表権を有していないこと。 |
相続の場合も要件の考え方は同様ですが、代表権を有する時期など細部が異なります。後継者が2人または3人の場合は、議決権数について上記より詳しい要件があります。議決権数の判定方法や例外規定を含む詳しい要件は、国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月2〜3ページ・6〜7ページ、または中小企業庁・都道府県の窓口でご確認ください。
2. 個人版事業承継税制の期限と対象資産
個人版事業承継税制は、青色申告(正規の簿記の原則によるものに限り、不動産貸付業等を除く)に係る事業を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、平成31年1月1日から2028年12月31日までの贈与または相続等により、特定事業用資産を取得した場合に、その資産に係る贈与税・相続税の全額の納税を猶予し、後継者の死亡等の事由により猶予税額を免除する制度です。〔国税庁「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし」令和8年7月〕
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 個人事業承継計画の提出 | 2028年9月30日まで |
| 贈与・相続の実施 | 2028年12月31日まで |
個人事業承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正で2026年3月31日から2年6か月延長されました。生計を一にする親族からの特定事業用資産の贈与・相続等は、この期間内かつ先代事業者からの贈与・相続等の日から1年を経過する日までにされたものに限られます。
対象となる特定事業用資産
対象となる「特定事業用資産」は、先代事業者の事業の用に供されていた次の資産で、贈与・相続等の日の属する年の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていたものです。
- 宅地等(400㎡まで)
- 建物(床面積800㎡まで)
- それ以外の減価償却資産のうち、固定資産税の課税対象とされているもの、自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの、その他一定のもの(一定の貨物運送用および乗用自動車、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形固定資産)
後継者が複数の場合、宅地等・建物の面積は各後継者が取得した面積の合計で判定します。先代事業者と生計を一にする親族が所有する資産も、上記の要件を満たせば特定事業用資産に該当します。個人事業主の税金全般については個人事業主の税金もあわせてご覧ください。
3. 相続時精算課税制度との関係
事業承継税制の適用を受けるための贈与は、暦年課税と相続時精算課税のどちらでも行えます。相続時精算課税を選択する場合、通常は60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与であることが必要ですが、事業承継税制の特例措置の適用を受ける贈与に限り、後継者が推定相続人でなくても、18歳以上の者であれば相続時精算課税を選択できます。一般措置の場合は、通常どおり18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫であることが必要です。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
相続時精算課税を選択した場合の贈与税額は、事業承継税制の対象となる非上場株式等の価額の合計額から、基礎控除額110万円(令和6年1月1日以後の贈与に限る)と特別控除額2,500万円(前年以前にこの特別控除を使った金額がある場合は、その金額を控除した残額)を差し引いた残額に20%の税率を掛けて計算します。
当会の計算例(架空の設例)
60歳以上の先代経営者から18歳以上の後継者へ、事業承継税制の特例措置の対象として非上場株式等3,000万円分の贈与を受け、相続時精算課税を選択した場合の贈与税額は、次のとおりです(令和6年1月1日以後の贈与とします)。
3,000万円 − 基礎控除110万円 − 特別控除2,500万円 = 課税価格390万円
390万円 × 20% = 贈与税額78万円
この贈与税額の全額が、事業承継税制の適用により納税猶予の対象になります。特別控除額2,500万円は生涯を通じた累計額であり、前年以前に使った金額があればその分を差し引いた残りが限度になります。
相続税の計算では、相続時精算課税を選択した財産の贈与時の価額(令和6年1月1日以後の贈与は、上記の基礎控除額を控除した後の残額)を、相続財産に加えて計算します。相続税や贈与税の基本的な仕組みは相続税の基本・贈与税の基本で解説しています。
4. 事業承継で発生する税金の基本
法人の事業承継では、自社株式(非上場株式)を後継者に承継する際に相続税・贈与税がかかります。非上場株式の評価額は、後述する類似業種比準方式・純資産価額方式などで計算しますが、内部留保を厚く蓄積してきた会社ほど、純資産価額方式による評価額が高くなりやすい傾向があります。相続税の税率は、法定相続分に応ずる取得金額が6億円を超える部分で最高55%です。〔国税庁タックスアンサー No.4155〕
個人事業主の場合は、事業用資産(土地、建物、機械設備等)の承継に相続税・贈与税がかかります。宅地等の評価額は路線価方式・倍率方式(後述)で計算するため、地価の高い地域に所在する宅地等ほど評価額が高くなり、それに応じて相続税・贈与税の負担も大きくなります。役員退職金を支給する場合は、会社側の法人税の扱いと、後継者・先代経営者側の相続税・贈与税の両方に関係するため、承継の計画とあわせて検討する必要があります。
このほか、事業承継にともなって発生しうる税金として、次の2つがあります。第一に、退任する先代経営者が受け取る役員退職金は、所得税の計算上「退職所得」に区分され、原則として(収入金額-退職所得控除額)×2分の1に相当する金額にのみ課税される優遇措置があります(役員等勤続年数が5年以下の場合等を除きます)。〔国税庁タックスアンサー No.1420〕第二に、個人版の特定事業用資産のように宅地等・建物の名義を後継者に移す場合、相続による取得には不動産取得税がかかりませんが、贈与による取得には不動産取得税がかかります(地方税法第73条の7)。登録免許税(所有権移転登記)の税率は、相続が不動産の価額の1,000分の4、贈与が1,000分の20です。〔国税庁タックスアンサー No.7191〕
5. 自社株式・事業用資産の評価と対策の基本
取引相場のない株式(上場株式および気配相場等のある株式以外の株式)は、その株式を取得した株主が会社の経営支配力を持つ同族株主等かどうかで、評価方法が異なります。同族株主等が取得する場合は、会社の規模に応じて次のいずれかの方法(原則的評価方式)で評価します。
| 会社規模 | 評価方法 | 概要 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 類似業種の株価を基準に、1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)の3要素で比準して評価 |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 会社の資産・負債を相続税の評価に洗い替え、評価差額に対する法人税額等相当額を控除して評価 |
| 中会社 | 併用方式 | 大会社・小会社の評価方法を併用 |
上記は原則的な評価方式で、大会社は類似業種比準方式に代えて、小会社は純資産価額方式に代えて、納税義務者の選択によりそれぞれもう一方の方式(または両者を併用する方式)で評価額が低くなる場合はそちらを選ぶこともできます(財産評価基本通達179)。同族株主以外の株主が取得する株式は、会社規模にかかわらず、配当還元方式(年間配当金額を10%の利率で還元)で評価します。〔国税庁タックスアンサー No.4638〕
個人事業の事業用資産(宅地等)は、相続税の財産評価の一般的な方法(路線価方式・倍率方式等)で評価します。詳しくは相続税の基本をご覧ください。
株価対策の基本的な考え方
自社株式の評価額を計画的に抑える対策としては、役員退職金の支給(会社の利益・純資産の圧縮)、配当水準の見直し、含み損のある資産の整理といった方法があります。役員退職金は、適正な額であれば損金の額に算入されますが、税務上「不相当に高額な部分の金額」と判断されると、その部分は損金に算入されません(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号)。具体的な適正額は会社ごとの事情によって異なるため、税理士等の専門家に確認しながら決める必要があります。
当会の計算例(架空の設例)
発行済株式数1万株の会社(小会社、純資産価額方式で評価)で、相続税評価額による純資産(資産−負債)が3億円、帳簿価額による純資産が1億円(評価差額2億円)だったとします。評価差額に対する法人税額等相当額は37%(財産評価基本通達185)なので、1株当たり純資産価額は次のとおりです。
(3億円 − 2億円 × 37%) ÷ 1万株 = (3億円 − 7,400万円) ÷ 1万株 = 22,600円
ここで役員退職金5,000万円を支給し、相続税評価額による純資産・帳簿価額による純資産がともに5,000万円減少した(評価差額2億円は変わらない)と仮定すると、1株当たり純資産価額は次のようになります。
(2億5,000万円 − 2億円 × 37%) ÷ 1万株 = (2億5,000万円 − 7,400万円) ÷ 1万株 = 17,600円
この設例では、退職金の支給により1株当たり純資産価額が5,000円(5,000万円 ÷ 1万株)下がる計算になります。実際の効果は、評価差額そのものの増減や含み損益の状況、退職金が不相当に高額と判定されないかなど、会社ごとの事情によって異なります。
6. 後継者がいない場合の選択肢:M&A
親族や従業員に後継者がいない場合、第三者への株式譲渡や事業譲渡(M&A)による事業承継も選択肢の一つです。M&Aで会社を譲渡した場合の税金は、事業承継税制の納税猶予とは仕組みが異なる点に注意が必要です。
株式譲渡による税金
オーナー経営者が保有する非上場株式を第三者に譲渡した場合、その譲渡益は事業承継税制の対象ではなく、株式等に係る譲渡所得として、他の所得と区分して税額を計算する申告分離課税の対象になります。税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%(所得税額の2.1%相当)、住民税5%の合計20.315%です(平成25年から令和29年までの各年分)。〔国税庁タックスアンサー No.1463〕
事業譲渡による税金
会社の事業の全部または一部を第三者に譲渡する事業譲渡を選択した場合は、譲渡の主体が会社自身であるため、株式譲渡とは課税関係が異なります。譲渡対価と譲渡資産の帳簿価額等との差額(譲渡益)は会社の益金に算入され、法人税・地方法人税・法人住民税・事業税の課税対象になります。また、譲渡対価のうち、棚卸資産・機械装置・営業権(のれん)などに対応する部分は消費税の課税資産の譲渡等に該当し消費税が課税されます(土地・有価証券・金銭債権に対応する部分は非課税です)。〔消費税法別表第一、国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」〕オーナーが譲渡代金を個人として受け取るには、会社から配当や役員退職金等の形で支払いを受ける必要があり、その際に別途、所得税・住民税がかかります。
M&A実施後の税制上の措置:中小企業事業再編投資損失準備金
中小企業等経営強化法の経営力向上計画(事業承継等を内容とするもの)の認定を受けた中小企業者が、株式取得によりM&Aを実施した場合、取得価額の一定割合(通常70%、特別事業再編計画の認定を受けた特定中堅・中小企業は90%または100%)以下の金額を、中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その金額を損金の額に算入できます(中小企業事業再編投資損失準備金、いわゆる中堅・中小グループ化税制)。現行の適用期限は2027年3月31日までです。〔財務省 令和9年度税制改正要望事項(経済産業省提出)〕
【要望段階・未確定】令和9年度税制改正要望(2026年9月時点)
経済産業省・中小企業庁は、令和9年度税制改正で、①事業承継税制の特例措置の期限到来を見据えた抜本的な見直し、②取引相場のない株式の評価方式の見直しにあたって企業の成長や事業承継を阻害しないよう慎重に検討すること、③中小企業事業再編投資損失準備金の適用期限を3年延長(2030年3月31日まで)することなどを要望しています。いずれも要望の段階であり、内容が固まるのは令和8年12月ごろに閣議決定される令和9年度税制改正の大綱です。〔財務省 令和9年度税制改正要望事項:事業承継税制の抜本見直し、同:取引相場のない株式の評価方式に関する見直し、同:中小企業事業再編投資損失準備金の延長等(いずれも経済産業省提出)〕
7. 期限の早見表
| 制度 | 手続き | 期限 | 確定度 |
|---|---|---|---|
| 法人版・特例措置 | 特例承継計画の提出 | 2027年9月30日 | 確定 |
| 法人版・特例措置 | 贈与・相続の実施 | 2027年12月31日 | 確定 |
| 法人版・一般措置 | 計画提出・適用期限 | 不要/期限なし(恒久措置) | 確定 |
| 個人版 | 個人事業承継計画の提出 | 2028年9月30日 | 確定 |
| 個人版 | 贈与・相続の実施 | 2028年12月31日 | 確定 |
| 中小企業事業再編投資損失準備金(M&A) | 適用期限 | 2027年3月31日 | 確定(3年延長は要望段階) |
| 特例措置の期限後の制度 | 抜本的な見直し | 未定 | 要望段階(令和9年度改正) |
「確定」は法令または閣議決定済みの税制改正大綱に基づく事項、「要望段階」は各省庁が税制改正要望として提出したのみで、12月の税制改正大綱の決定を経ていない事項です。
よくある質問
事業承継税制(特例措置)の期限はいつですか。延長されましたか。
法人版は、特例承継計画の提出期限が令和8年度税制改正で2026年3月31日から2027年9月30日に延長されました。贈与・相続を実施する期限は2027年12月31日で、この期限は延長されていません。個人版は、個人事業承継計画の提出期限が2028年9月30日に延長され、贈与・相続の期限は2028年12月31日のままです。〔国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」令和8年7月、財務省 令和8年度税制改正の大綱〕
特例措置と一般措置はどう違いますか。
特例措置は事前に特例承継計画の提出が必要な代わりに、対象株式数の上限がなく、納税猶予割合は贈与・相続とも100%です。一般措置は計画の提出が不要ですが、対象株式数は総株式数の3分の2まで、納税猶予割合は贈与100%・相続80%です。雇用確保要件(承継後5年間平均8割の雇用維持)はどちらにもありますが、特例措置は下回っても理由書の提出で納税猶予を続けられるのに対し、一般措置は原則として猶予が打ち切られます。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
個人事業主も事業承継税制を使えますか。
個人版事業承継税制があります。青色申告(正規の簿記の原則によるもの。不動産貸付業等を除く)を行っていた事業者の後継者が対象で、宅地等(400㎡まで)、建物(床面積800㎡まで)などの特定事業用資産を贈与・相続で取得した場合に、贈与税・相続税の全額が納税猶予されます。個人事業承継計画は2028年9月30日までに都道府県知事に提出します。〔国税庁「個人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
相続時精算課税制度と組み合わせられますか。
組み合わせられます。通常の相続時精算課税は60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与が対象ですが、事業承継税制の特例措置の適用を受ける場合は、後継者が推定相続人でなくても、18歳以上の者であれば選択できます。基礎控除110万円(令和6年1月1日以後の贈与に限る)と特別控除2,500万円を差し引いた残額に20%の税率がかかります。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
事業承継税制を使えば税金はゼロになりますか。
納税が猶予されるのであって、その場で免除が確定するわけではありません。後継者の死亡など一定の事由が生じたときに、その時点で猶予されている税額が免除されます。逆に、対象株式を譲渡するなど確定事由に該当すると、猶予されていた税額と利子税をまとめて納付する必要があります。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
後継者がいない場合はどうすればよいですか。
親族や従業員への承継のほか、第三者への株式譲渡等(M&A)という選択肢があります。M&Aで株式を譲渡した場合の譲渡益は事業承継税制の対象ではなく、株式等に係る譲渡所得として申告分離課税(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%、合計20.315%)の対象になります。中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けてM&Aを行う場合は、中小企業事業再編投資損失準備金(適用期限2027年3月31日)を使える場合があります。〔国税庁タックスアンサーNo.1463、財務省 令和9年度税制改正要望事項(経済産業省提出)〕
特例承継計画は、贈与した後からでも提出できますか。
提出できます。円滑化法の認定申請時(贈与を受けた年の翌年1月15日まで)までに特例承継計画を提出すれば足ります。ただし計画そのものの提出期限は2027年9月30日までで、この日を過ぎると特例措置の対象にはなりません。〔国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」令和8年7月〕
事業承継税制の詳しい適用要件はどこで確認できますか。個別の相談はできますか。
会社の要件(上場会社・資産管理会社等のいずれにも該当しないことなど)、後継者の要件(贈与・相続の時に代表権を有すること、18歳以上であることなど)、先代経営者等の要件(代表権を有していたことなど)の骨子は、特例措置の適用を受けるための主な要件にまとめています。詳しい要件は、国税庁と中小企業庁の資料で確認できます。当会は一般的な情報提供を行っており、個別の税務相談は税務相談の窓口のご案内をご覧ください。
まとめ
- 法人版事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、贈与・相続の実施期限が2027年12月31日です。提出期限は令和8年度税制改正で1年6か月延長されました。
- 一般措置には期限がなく恒久的な制度ですが、対象株式数は3分の2まで、相続税の猶予割合は80%にとどまります。
- 個人版事業承継税制は、個人事業承継計画の提出期限が2028年9月30日、贈与・相続の実施期限が2028年12月31日です。対象資産は宅地等・建物等の特定事業用資産に限られます。
- 事業承継税制の特例措置の適用を受ける贈与は、後継者が推定相続人でなくても相続時精算課税を選択できます。
- 後継者がいない場合は、M&Aによる第三者承継も選択肢です。株式譲渡による譲渡益は事業承継税制の対象ではなく、申告分離課税(合計20.315%)の対象になり、事業譲渡の場合は会社に法人税・消費税がかかります。
- 特例措置の期限が到来した後の制度のあり方は、令和9年度税制改正に向けて要望が出されている段階で、2026年9月時点では確定していません。
出典・参考資料
いずれも2026年9月26日に内容を確認しました。
国税庁
- 法人版事業承継税制
- 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和8年7月、PDF)
- 個人版事業承継税制
- 個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし(令和8年7月、PDF)
- タックスアンサー No.4638 取引相場のない株式の評価
- タックスアンサー No.4155 相続税の税率
- タックスアンサー No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
- タックスアンサー No.5208 役員の退職金の損金算入時期
- タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
- 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」
財務省・経済産業省
- 令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定、PDF)
- 令和9年度税制改正要望事項:事業承継税制の抜本見直し(経済産業省、PDF)
- 令和9年度税制改正要望事項:取引相場のない株式の評価方式に関する見直し(経済産業省、PDF)
- 令和9年度税制改正要望事項:中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)の延長等(経済産業省、PDF)
- 令和9年度税制改正要望事項一覧(経済産業省)
法令
- 租税特別措置法 第70条の7~第70条の7の8(法人版事業承継税制)、第70条の6の8~第70条の6の10(個人版事業承継税制)、第70条の2の7・第70条の2の8(相続時精算課税適用者の特例)
- 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)、法人税法施行令 第70条
- 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 第16条第1号(特例承継計画)、第17条第1項第1号(特例承継計画の確認)
- 財産評価基本通達 178(取引相場のない株式の評価上の区分)、179(取引相場のない株式の評価の原則)、185(純資産価額方式の計算、評価差額に対する法人税額等相当額)
- 地方税法 第73条の7(相続による不動産の取得に対する不動産取得税の非課税)
- 消費税法 別表第一(非課税とされる資産の譲渡等の範囲)
改訂履歴と監修について
著者:新宿間税会(新宿間税会について)
- 2025年7月14日:公開
- 2026年9月25日:特例承継計画・個人事業承継計画の提出期限の誤りを訂正(監修者確認中)
- 2026年9月26日:全面改訂。令和8年度税制改正の内容(提出期限の延長の経緯)を反映し、一般措置・個人版の対象資産・相続時精算課税との関係・M&Aの税金の節を追加しました。根拠の確認できない数値例とSVG図をすべて削除し、内容をHTMLの文章・表に置き換え、出典を明記しました。
監修の状況は、冒頭の「監修について」のとおりです。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については、税理士などの専門家や、所轄の税務署にご相談ください。