事業承継と税金
日本の中小企業の多くが直面している事業承継。経営者の高齢化が進む中、後継者への円滑な事業の引き継ぎは、企業の存続と発展にとって極めて重要な課題です。本記事では、事業承継に関わる税金の仕組みと、負担を軽減するための各種制度・対策について、分かりやすく解説します。
図1:事業承継と税金の全体像
1. 事業承継で発生する税金の基本
1.1 自社株式の承継と税金
事業承継において最も大きな税負担となるのが、自社株式の承継に伴う相続税・贈与税です。
- 相続による承継:相続税の対象
- 生前贈与による承継:贈与税の対象
非上場企業の株式は、会社の業績が好調であるほど評価額が高くなり、それに伴って税負担も増大します。特に、長年にわたって利益を蓄積してきた優良企業では、株式評価額が想像以上に高額になることがあります。
1.2 個人事業主の事業承継と税金
個人事業主の場合、事業用資産(土地、建物、機械設備等)の承継に相続税・贈与税が課されます。特に、都市部で事業を営んでいる場合、土地の評価額が高額になることが多く、大きな税負担となります。
図2:事業承継で発生する税金の種類
2. 自社株式の評価方法
非上場株式の評価は、会社の規模や特性に応じて以下の方法で行われます。
図3:自社株式の評価方法の比較
2.1 類似業種比準方式
類似する上場企業の株価を基準に、配当、利益、純資産の3要素で比較して評価する方法です。主に大会社で採用され、一般的に純資産価額方式より低い評価額となる傾向があります。
2.2 純資産価額方式
会社の資産・負債を相続税評価額で評価し直し、その差額から法人税相当額を控除して算出する方法です。主に小会社で採用されます。
2.3 併用方式
中会社では、類似業種比準価額と純資産価額を一定の割合で併用して評価します。会社の規模が大きいほど、類似業種比準価額の割合が高くなります。
3. 事業承継税制の活用
ポイント
事業承継税制の特例措置は2027年12月末までの時限措置です。活用を検討している企業は、2026年3月31日までに特例承継計画を提出する必要があります。
3.1 法人版事業承継税制
図4:事業承継税制の特例措置タイムライン
特例措置(2027年12月末まで)
主な特徴:
- 対象株式数:全株式(上限撤廃)
- 納税猶予割合:100%
- 対象者:複数の株主から最大3人の後継者へ
- 雇用要件:実質的に撤廃(8割維持できなくても継続可能)
適用要件:
- 2026年3月31日までに特例承継計画を都道府県に提出
- 2027年12月31日までに実際の贈与・相続を実施
- 中小企業経営承継円滑化法の認定を受ける
一般措置(恒久的制度)
特例措置終了後も継続する制度で、対象株式は総株式数の2/3まで、相続税の猶予割合は80%となります。
3.2 個人版事業承継税制(2028年12月末まで)
個人事業主の事業用資産について、贈与税・相続税を100%納税猶予する制度です。
対象資産:
- 土地(400㎡まで)
- 建物(800㎡まで)
- 機械・器具備品
- 車両・運搬具
- 生物(乳牛・果樹等)
- 無形固定資産(特許権等)
4. 株価引き下げ対策
4.1 役員退職金の活用
役員退職金の支給は、事業承継における最も効果的な株価引き下げ対策の一つです。
図5:役員退職金による株価引き下げ効果
効果:
- 株価の引き下げ:退職金支給により会社の利益・純資産が減少
- 法人税の軽減:退職金は損金算入可能
- 所得税の優遇:退職所得控除により税負担軽減
重要
過大な退職金は税務上「不相当に高額」と判断され、損金不算入となるリスクがあります。功績倍率法等を用いて適正額を算定することが重要です。
4.2 その他の株価引き下げ対策
- 配当の見直し:過大な配当は株価を押し上げる要因となるため、適正水準への見直しを検討
- 不良資産の処理:含み損のある資産の売却や不良債権の処理により、純資産を圧縮
- 生命保険の活用:法人契約の生命保険により利益を圧縮し、将来の退職金原資も確保
5. 事業承継のタイミングと計画
5.1 早期着手の重要性
事業承継対策は、できるだけ早期に着手することが重要です。特に以下の準備には時間がかかります。
図6:事業承継の段階的プロセス
- 後継者の育成(5~10年)
- 株価対策の実施(3~5年)
- 退職金原資の積立(10年以上)
5.2 段階的な承継
一度にすべての株式を移転するのではなく、段階的に承継することで、税負担を分散できます。
暦年贈与の活用:
- 年間110万円の基礎控除を活用
- 複数の親族への分散贈与も検討
相続時精算課税制度:
- 2,500万円まで贈与税非課税
- 相続時に相続財産に加算して精算
6. 税制改正への対応
6.1 令和7年度税制改正の注目点
事業承継税制については、特例措置の期限延長等が検討される可能性があります。最新の税制改正大綱を確認し、適切に対応することが重要です。
6.2 将来の制度変更リスク
税制は頻繁に改正されるため、現行制度に過度に依存せず、複数の対策を組み合わせることが賢明です。
7. 専門家の活用
図7:専門家チームのサポート体制
7.1 税理士の役割
- 自社株評価の算定
- 税務対策の立案・実行
- 申告書の作成・提出
7.2 その他の専門家
- 弁護士:相続紛争の予防、遺言書作成
- 司法書士:株式譲渡手続き、登記手続き
- 中小企業診断士:事業承継計画の策定支援
8. よくある質問(Q&A)
Q1. 事業承継税制を使えば、本当に税金はゼロになりますか?
A1. 特例措置では贈与税・相続税の100%が納税猶予されるため、要件を満たし続ければ実質的にゼロになります。ただし、後継者が事業を継続し、次世代への承継等の免除要件を満たす必要があります。
Q2. 役員退職金はいくらまで支給できますか?
A2. 法的な上限はありませんが、税務上「不相当に高額」と判断されると損金不算入となります。同業他社の事例や功績倍率法を参考に、適正額を設定することが重要です。
Q3. 個人事業主ですが、法人成りしてから事業承継した方が有利ですか?
A3. ケースバイケースです。法人化により事業承継税制の選択肢が広がりますが、法人化自体にコストがかかります。事業規模や資産構成を考慮して判断する必要があります。
Q4. 事業承継税制の特例措置の期限が延長される可能性はありますか?
A4. 過去の税制改正では期限延長された例もありますが、確実ではありません。現行の期限を前提に準備を進めることが重要です。
Q5. 後継者がいない場合はどうすればよいですか?
A5. 従業員への承継、外部からの招聘、M&Aなどの選択肢があります。それぞれメリット・デメリットがあるため、専門家に相談しながら最適な方法を選択することが重要です。
まとめ
図8:事業承継成功のポイント
事業承継における税負担は、適切な対策により大幅に軽減できます。重要なのは、早期に計画を立て、専門家のアドバイスを受けながら、自社に最適な対策を実行することです。
特に、事業承継税制の特例措置は2027年12月末までの時限措置であり、活用を検討している企業は早急に準備を進める必要があります。また、役員退職金の活用など、従来からの対策も組み合わせることで、より効果的な事業承継が可能となります。
事業承継は単なる税金対策ではなく、企業の持続的発展のための重要な経営課題です。後継者の育成、組織体制の整備、取引先との関係維持など、総合的な視点で取り組むことが、真の意味での円滑な事業承継につながります。
情報の出典: 国税庁、中小企業庁の公表資料
更新日: 2025年7月14日現在の法令に基づく
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。