「スケール80分の1のメルヘン」
昭和49年9月のある日、我が"武蔵野本線"は着工以来8年目、計画以来10数年の歳月を経て開通しました。戦前──昭和初期までの状況を再現した自作の鉄道模型であります。すべてのスケールを実物の80分の1に縮小して作り上げてゆきます。この当時ですと本線クラスでも未電化が多く、主力機はいわゆるSL(蒸気機関車)になります。
……今は山中、今は浜、今は鉄橋渡るぞと──ポッポーッ!!
わがSLの牽く特急優等列車が今は見ることの出来ない一等展望車を従えて目の前を走り抜けてゆきます。
レイアウトといわれる敷設は3帖間の広さ一杯を占め、その上に山あり、川あり、野原があり、これに掛かる鉄橋、トンネルをはじめ当時の幻を再現して作り上げています。それは木々一本一本に至るまで。余談ですが実物の鉄道敷設に付き物の用地買収は大変な困難な仕事です。当鉄道も計画から着工までの数年はこれに要した訳ですが、結論から申し上げれば家内をはじめ家族の暖い理解と協力で解決出来ました。
戦後ある人とのふとした触れ合いから20数年前に再開したのが病みつきとなり、いつ終わるとも知れない鉄道模型の建設を続けることになりました。子供の頃に興味を持ったキシャポッポがやがて手作りの模型でスタートし、戦時下の物資不足で中断して戦後の更にひどい物資難で忘れていたものです。
一枚の板材から、一本の細い線材から図面に従って出来上がると、やがて入線するや、実物と同じようにブラストの音もたくましくそして汽笛を鳴らして走り出します。SLとはいってもここの運転は電動式です。従って電子音で実感味溢れる運転の音響を機関車に搭載したミニスピーカーで再生しながら走ります。例え模型でも、音のない汽車は興味半減です。
毎日10分でも15分でも余暇を見て製作・整備・点検の何かが行われます。勿論すべてが兼任で社長、兼運転手、兼検車係、兼設計技師、兼組立工なのです。
趣味なのでコツコツと休みなく、そして長時間作業などの無理をしないで続けるのが楽しいようです。然し結果への厳しさはあるようで、口をきかない車両や施設は、手を抜くと忽ち具合が悪くなり無言で実状を訴えます。
実物に引伸しますと、当鉄道も「後楽園の中をデコイチの牽く列車が走り回る」ようなものです。古い時代への追憶を、現代の新しい技術で作り再現してゆくのも、又楽しみなものです。
編集後記
今回で第3号の発行です。早いものでもう一年たちました。私達編集委員もだいぶなれてきて一生懸命がんばっております。
表紙は今年の"干支"を集め、写真家小山昌男氏のご好意により使わせて戴きました。
編集事務局:株式会社京王百貨店経理部管理課
発行年月日:昭和58年1月
発行者:淀橋物品税協力会