雑学コーナー『質屋 今昔物語』(株)カワノ・ジェム 代表取締役 川野 健二
新年あけまして、おめでとうございます。
皆様お元気にお過ごしのことと存じます。
本年もよろしくお願い致します。
当社は、 新宿で質屋を営んでおりますが、昨年来の景気後退の中、 質屋業はどうなっているのか、 創業期そして現在のことを話してみたいと思います。
私の父は、五反田の生まれで終戦直後は古着の売買をしていたそうです。
当時は、物不足の時代ですから、手に入る古着や生地さえあれば全部売れた時代です。
その当時、 日本は終戦を向かえ、 父が地方の家で不要になった暗幕を安く手に入れては古着の市場に運んで飛ぶように売ったそうです。
最初は、 五反田の市場で売買しておりましたが、 ある日、新宿の市場を見学に行ったところ、 そこでは、五反田の3倍もの荷が集まることを知り、 新宿へ出店することを決めたそうです。
そして、昭和23年に現在の新宿駅中央口前に店を構えました。
私の父は、外へ出て商売をする機会が多かったようです。
そんなある日、 母が店に立って古着の販売の仕事を手伝っていると、 「この着物は、自分が大切にしているので、 手放したくはないのだが、これを担保にお金を貸して下さい。
」と言うひとりのお客様が現れたそうです。
そこで母が、『その様な、 お客様がいるのなら』 とお金を貸したのが、 質屋営業を始めるきっかけでした。
しかし、そうはいっても母は、 結城市の片田舎の出身ですから、 質屋営業のことは何も分かりません。
早速、 新聞の求人欄で経験者の募集をしたところ、 良い人に当たったのでしょう、 質草の見方、 保管の方法、 台帳の書き方等質屋営業に必要な事柄を教えてもらったそうです。
最近、 お客から質屋は不景気の時は儲かるでしょうと言われるのですが、 確かに戦後の物不足の時代は、 質草として預かった物が値下がりすることはなく、 見立て違いさえしなければ、 質流れ品の換金もスムーズでした。
しかし、現在のような物余りの時代は、景気の変動によりお客様より預かった物が値下がりするので、質屋営業にとっても難しい時代になっています。
昔は、 質草といえば衣類を中心に、 カメラ、 電化製品等が多かったのですが、現在衣類はファッション化、 カメラ・電化製品は早期のモデルチェンジによって、短期間で旧モデルが陳腐化してしまいます。
ですから、値下がりの早いものは、 質草にならなくなってきました。
ある日こんな事がありました。
お客様がタクシーで大きなテレビを持って見えられまして、 「外にタクシーを待たせているので、これでいくらになりますか。
タクシー代も支払いたいので早くして下さい。
」 と言うので、お客様にテレビの預り金額を伝えたところ、なんとそれはタクシー代と全く同じ金額でした。
今は大きいテレビを買い換える時に、 使わなくなったテレビは、 故障していなくても処分費用がかかる時代です。
一方、機械製品でもモデルチェンジのサイクルが長い品物は、質草としての担保価値が高く価格も安定しています。
例えば、 ロレックス等は香港の質屋さんにおいても、同様に担保価値が高く価格-6-も安定しているそうです。
質屋のお客様は物持ちの方が多く、 お金が入るとその多くを自分の好きな趣味の物に費やす人もいます。
ある人は、 「珍しく中々手に入らないカメラが見つかったので・・」と持っているカメラを担保にお金を作って、 珍しいカメラを買ってしまうことを繰り返し、私の店でも多いときには、 20台位預かったことがありました。
質屋にはマニアのお客様が多くいらっしゃいます。
マニアのお客様が持っていらっしゃる品物を見ていると、 カメラの人はずっとカメラ、時計の人は10年たっても時計が質草です。
質屋のお客様は、 お金よりも物にこだわるので、時間さえあればいろいろなところへ行って見て買い物をするのが大変好きですし、物を見る眼が高い人達ですから、私たちも普段見たことの無い珍しい物を見聞きさせて頂けます。
質屋の流れ品を買う人の中には、 プロの消費者がいらっしゃいます。
私が質流れ商品の整理を行っている時、 18金の枠に入ったメダルのような物がありました。
値段を付けてショーウインドへ並べたところ、 馴染みのお客様がみえ、 18金相当の値段で買っていかれました。
それから6ヶ月位して、そのお客様が再びみえられ 「あの時のメダルをアメリカへ鑑定に出したところ、 古代ローマ時代の金貨だった」と嬉しそうに話していました。
それなら質流れする前の持ち主は、なぜ流したのか私には分かりませんが、プレゼントされたが本当の価値を知らなかったのかも知れません。
プレゼントと言えば、テレビで複数の男性に同じ物をねだって、 ひとつだけ残して他を質屋に売ってしまう話を見たことがありましたが、実際には、 稀なケースです。
こんな話もありました。
ひとりの男性が怒った様子で「女房のプレゼントに高価なハンドバッグを買ってあげたのに、 『趣味に合わない』 と言われたので、いくらでもいいから買って下さい」 と言って、 そのバッグを処分してしまいました。
またある時、 若い女性が来て「男性からプレゼントされたのですが、 そのお返しをしたいので、いくら位の価値があるか教えてください」 と言って差し出したその指輪を見ると、ダイヤモンドの模造品でした。
本当の事を言って良いものかどうか迷った末、「この指輪は模造品で、商品価値はありません」と話したところ、涙を浮かべて帰られてしまいました。
それ以来、 お客様からそのような依頼を受けた時は、 『宝石の鑑定機関へ行って、 調べて頂いたらいかがでしょうか』 と言うことにしています。
プレゼントの習慣が当たり前になった今日、 送る方も送られる方も気配りが大切になってきていると思います。