ブックタイトルtax-vol.6-1984-a

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tax-vol.6-1984-a

懲味のコーナーパイプ』バイフ作家森内俊雄趣味を語ることは恐い。その人柄があらわになるに加え、いかなる趣味と言えども、奥深いものだと思うからである。遊び、慰めに終わらず、精神の高みに達するものでもあるから、たかが趣味と軽く言うことが、はばかられる。もっとも、時には、生きるための趣味なのか、趣味のために生きているのか、見分けがたくなる人も無いではない。極端に走って、生きること自体が趣味だ、とうそぶくものもいる。私の趣味はバイプ喫煙である。喫煙は嗜好に属するが、美食をもって趣味とする人もあるし、煙を吸う道具としてのパイプの自然の木目、造型の美しさへの関心から、愛玩蒐集に到るから、これがホビーであることに疑いはない。私はバイプを愛して二十三年になる。ところで、、ンガレットは誰でも手軽になじめるが、パイプは少々事情がことなる。バイプは、人を選ぶ、という。有難いことに、私はパイプに選ばれた。その幸福に毎日ひたっている。?ンガレットも決して悪くはないが、煙草のうまさ、心の安らぎを得るに、バイプにまさるものはない。パイプは人を選ぶ、と書いたが、人との交わりと同じで、付き合いはじめる人の心次第で、誰でも親しくなじめるものである。最近、喫煙の害がうるさく言われているが、私はパイプを吸ってきた御蔭で健康である。何故なら煙草をおいしく吸いたいがために、快食、快眠、快便、運動、入浴を心がけてきた。健康診断も、きちんとうけている。加えて、パイプ喫煙は、・ンガーの吸い方と同じく、ゆっくり味わい、胸深く吸わず、口腔、鼻腔を主とした、一種の環流法で味わうから、悪影響は・ンガレットより軽い。煙の粒子も大きいから肺胞への浸透もすくない。私は嫌煙家のさわぎ立てる人に申し上げたいのだが、食品添加物や排気ガスがもっと危険だし、そもそも酒と違って、煙草を吸ったばかりに、一家離散、喧嘩口論、殺人、みだらな行為に走った人の話を聞いたことがなVヽ゜もちろん、私も煙草の謳に及ぼす害を知らないわけではない。煙草を吸わない人、特に子供や病人のそばでは、きびしく自分をいましめている。自分自身に対しても節制を言い渡してある。笑いたければ笑えばいいが、ガソ保険にもはいっている。さて、バイプの楽しさ、味わいの紹介がこの小文では不可能なのが残念であるが、値段のことについて言えばきりがない。新車一台を買えるくらいのものから、ちょっとした御馳走をいただく、五、六千円、いや、もっと安いものもあって、その人の考え次第だが、安い物でも探せば、良いものが手にはいる。それにパイプは、使いこんで、思い出を日々にこめ、色つやをよくしてゆくものである。無理をすることはない。私は喜怒哀楽の折々に、パイプを買う。並べてあるのを眺めれば、それを買った日の天候、気分、その日に味わった食事にいたるまで、すべて思い出せるし、また苦楽、人生の哀歓をともにしてきた日々の記憶のすべてがそこにある。バイプ党になるかどうか、買う買わないは別にして、一度、パイプ店に足を運んで欲しい。思いもしなかった発見をすることをうけあっていい。私はパイプ仲間がひとりでも多く増えることを、心から望んでいる。私は別にへつらい、お世辞を言い、宣伝をするつもりは、いささかもないが、パイプ店巡礼の結果で言えば、新宿紀伊国屋ピル→堵奥にある加賀屋をおすすめする。パイプに関してのお勉強を最も良くし、店主の森井寛氏のお人柄からか、ここでは、おしつけがましくなく、かといって老舗ぶってたかぶらず、おっとりと応待してもらえる。もっとも私自身は、バイプ気違いなので、行けば欲しくなり、目の毒なので、年に二、三度しか覗かない、はなはだ上得意ではない客である。いまは世紀末だが、来たる二十一世紀百年が、人類の歴史の世紀末だという。どんなものだろう?せかせかしないで、パイプでも吸って、ゆったりといきたいものである。-12-..