ブックタイトルtax-vol.2-1982-a

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概要

tax-vol.2-1982-a

随筆私の花壇.夜九時も過ぎた頃、ゴザの上に新聞紙を広げる。それは、一日の用がすんで新聞でも読みましょう、という為ではないのです。可愛いい花、セソトボーリアの植えかえの時間なのです。冬の間、窓辺で咲きつづけた株は、小さいないがら繁りにしげって、鉢ーぱいに根を張っているのです。ー株を三つか四つに分けて小鉢に植えかえます。私の楽しい春の作業です。株分けが終る頃、去年の始め葉ざしした上に、ッソッソ小さな葉が出はじめます。それ)噌をつけて開きかけると、ああこの花はなかしら、これはピソクだワと、一日の花は紫かしら、これはヒ゜ ソクだワと、一日の.疲れも忘れてたのしい花との対話がはじまるものです。私が生れ育った土地は、夫婦岩で有名な伊勢の二見ケ浦です。伊勢神宮を流れる五十鈴川が、汐合川と名を変えて、その名のとおり淡水が塩水と混り合い、おだやかな川面を見せる辺りに私の家はあります。金剛証寺をいだ<霊山、朝態山を借景に、麓に広がる農村、そして汐合川を見る我家からの風景は素晴らしいものです。幼い日、私は母にせがんで、裏庭の一画を「私の花壇」と名づけていました。それは、小石でまわりを囲んだだけの、一畳程のやせた砂地でしたが、ちょうど今頃は、春に蒔いたかすみ草が、夢のような白い花をつけて、かすかな風にもゆらゆらゆれていました。競い咲くセントポーリアを前に阿竹みゑ(婦人部長)'""-,,,女学生の頃、毎日40分程テクテク歩き、30分程チソチ`ノ電車にゆられて宇治山田にある学校へ着くのでした。朝夕通うその道は、松並木をすぎると一面にひろがる田んぼの土手道です。れんげの咲く頃は、友と二人、鞄を放り出し、先を競って花のしとねに寝ころんだものです。・時間も忘れて、澄んだ空と、白い雲を眺めてました。夏、その道には、大きなネムの木があって、淡い紅色の房のような花をロマソチックに咲かせていました。秋には、野菊が可憐な花をつけ、萩や茫が波のようにゆらいでいました。その頃、私は野の花が好きで、月見草、水引、桔梗、おみなえし、われもこう、乙女の日のさまざまな思い出を色どってくれます。花々は、春の初々しさから凛然と咲く花菖蒲、そして雨に咲くあでやかな紫陽花、移ろいは女性に似ています。今はもう、人生の道のりも先の見通せる年令となってしまい、遠い昔の夢は淡くなってしまいましたけれど、花とのつきあいによって、心にゆとりをもちたいと願っています。-5-