ブックタイトルtax-vol.10-1986-a

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概要

tax-vol.10-1986-a

趣味のコーナー私の油彩画北信濃写生記株式会社三粧佐藤昌教12 ? 3k9位はあろうと思われる絵具箱や用具を提げて細い道を登り、畠の畦を崩さないように、あらかじめ選定した場所へ着き、キャンパスを対象的に向ってやや斜めに立てて仕度を整えます。ー服つけてこれから色をつけてゆく風景に大きく深呼吸するときは、初陣の若武者にも似た躍動感が張ってまいります。自然はど美しいモチーフはないと云いますが全くその通りです。絵の仲間と誘い合って、年に1~ 2回この北信濃の広大な景色の中に埋れてしまいます。大地は匂い、草木はそよぎ、鳥は囀り、せヽらぐ川音も聞えて、四囲は大自然に取り巻かれ、全くこの世の浄土です。勿論、空気のうまさも格別で、運ぶ絵筆も自らリズミカルになります。画面構成の中に入る山には、五月といえど雪を冠っており、山と裾野の中景には淡い雲が棚引き、すぐ近くの前景には、林檎の太い幹からゴツゴッした枝が延び、若芽をあしらって白い花が豪勢に咲き誇っています。?? ????というところを画き進めてゆくのですが、悲しいかな未熟者の筆はそう易々と動いてはくれません。-12-最初の心意気はだんだん萎み、果敢であるべきタッチは鈍り、色は混り合い、あまつさえ先程まで浮んでいた雲はなくなってしまい、山はガスに隠れ、風が出て画架は揺ぎ、もういろいろな悪条件が重なって、不安と心細さが募って来ます。青息三斗のこのような状況を救う手段がなかったら、お手上げもいいところです。そこはうまくしたもので、グループを統率し指導して頂いている先生が、と自分でも写生しながら気儘にわらびなど摘んで、私達の絵にも眼をとおしに来られます。「構図が一寸怪しいですね。これは右へ寄せた方がいい。」「空を見てご覧なさい。雲は白いとか黒いものではありません。よく見るといろいろな色があります。」と云って、折角描いているキャンパスに情け容赦なく強烈な筆づかいで塗りたくってゆくのです。心中おだやかではないのですが、一寸、先生が筆を加えますとアラ不思議や、絵が引き締って生き返ってくるのです。プロの偉大さをいやと云うはど見せつけられて驚嘆することがあります。もう一つの救う手だては、自分で「遊ぶ」ことです。到着以来こころ張りつめていたものを、フッと息抜きするのです。歌でも歌うのです。岩魚の走る川でも覗いてみるのです。所謂気分転換です。絵から離れて自分を自然の中へ放り出すのです。暫く自然の中に遊んで絵の前に立って見ますと、自分ながらの佳し悪しが今までの過程から見つけ出せるのですから面白いものです。(前ページヘ続く)..